新産業促進検討会, 最新活動報告

産業技術を活用した これからの農業のあり方~農商工連携勉強会~ 2014年9月18日

農業界と産業界との今後の連携の姿を探った

モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は2014年9月18日、東京都中央区の日刊工業新聞社内で農商工連携勉強会「産業技術を活用したこれからの農業のあり方」を開いた。農林水産省は産業界の力を積極活用して農業生産のコスト削減や、農業経営の新しいビジネスモデル開発などを目指す「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」(先端モデル事業)を展開している。そこで、先端モデル事業に採択されたプロジェクトを例に、農業界と産業界との今後の連携の姿を探った。

施策紹介

3年程度で新技術を実用化

農林水産省 経営局経営政策課 経営広報企画官 小柳豊憲氏

日本の農業は従事者の高年齢化が進んでおり、膨大な耕作放棄地が生まれている。経営マインドを持つ農業者が力を発揮できる環境をつくることは急務となっている。

農業生産のコスト削減は、これまでも農業界として技術改良などに取り組んできた。だが、新技術を実用化させるスピード感がもっと必要だ。そのために先端モデル事業をスタートさせた。

プロジェクトは最低でも農業者1者と企業1社でコンソーシアムを組織して取り組む。想定する対象技術は「低コスト生産技術体系の確立」「ICTを活用した効率的生産体制の構築」「低コストの農業機械開発」などだが、制約はない。

3年程度で実用化を試みるもので、成果を地域に広く普及することが要件だ。補助は経費の2分の1で、上限は初年度3000万円、2、3年目はそれぞれ1500万円だ。4年目以降は普及に努めてもらう。

プロジェクトは「効果」「新規性」「実現可能性」「普及可能性」の四つの観点で審査している。特定作目や特定エリア向けでなく、汎用性の高いものが採択されやすいといえる。

検討してみたい開発案件があれば、ぜひ我々に連絡してほしい。

農業IT管理ツール「豊作計画」について

営農見える化・課題抽出・現場改善

トヨタ自動車 新事業企画部企画総括グループ主任 喜多賢二氏

当社は環境緑化、バイオマス、農畜産支援の各事業を展開している。一例を挙げれば、茨城県つくば市でのトヨタ生産方式による改善活動や、宮城県大衡村の車両工場の排熱を利用した大規模温室栽培など。畜産向け堆肥化促進剤「resQ45 」も手がけている。

米生産プロセス改善は生産管理手法や工程改善ノウハウを米生産に応用し、稲作の生産性向上に貢献することが狙いだ。愛知県弥富市の鍋八農産と共同で着手したのは2011年。まず見える化から始めた。

鍋八農産は委託された水田を契約形態や品種ごとに”白地図”に色分けして管理していた。この手作業は耕起、田植え、稲刈りの年3回行う。社員は朝、1日の作業の指示を受けて現場に向かうが、田んぼには何の目印もない。区画間違いや作業漏れも発生していた。

1年かけて全工程を撮影し、ヒアリングも行った。その結果、米1キログラム当たりの生産コストが算出できた。工程ごとの作業時間とコストを管理することでコスト削減につなげるため、管理ツール「豊作計画」を開発することになった。

システムはクラウドを利用。ほ場データベースと作業データベースがあり、水田1枚1枚の作業計画が自動生成される。管理者が作業者ごとに振り当てて、作業者のスマートフォンに配信する。作業者はそれに基づいて作業を行い、実績を報告する。実績が日報となり、経営管理指標となり、経営状況確認や伝票発行に利用される。

作業者は自分の位置をGPS機能で確認できるので、場所の間違いや仕事枚数のミスはほぼゼロになった。

見える化の次は収集したデータをコスト削減・品質向上に活用するべく取り組んでいる。

先端モデル事業は石川県とも共同し、9社の農業法人と「米づくりカイゼンネットワーク」を立ち上げた。コンソーシアムでの改善活動は三つのステップで進めている。ステップ1は「豊作計画」を活用した営農の見える化。ステップ2はデータ解析による課題抽出。ステップ3は生産者による現場改善活動。収量向上や機械のシェアのように単独では取り組めないようなテーマは当社が取り次いで共同で取り組んでいく。

石川県は農業者の育成手法を確立し、普及員を通じて農業者育成に結びつける。当社は「豊作計画」とビッグデータの提供、業務改善支援を組み合わせたサービスの確立を目指している。

象ビッグデータの活用で農業を元気に! 
-坂の上のクラウドコンソーシアムの取り組み-

愛媛発、地域再生のサービス

ハレックス 社長 越智正昭氏

我々の先端モデル事業のテーマは、ビッグデータの活用による地域特性を考慮した時間先までの「農業用気象予報システム」の開発と、それを利用した新たな営農管理の検討。1キロメートルメッシュ・72時間先までの気象予報を安価で利用しやすいシステムで提供し、農業生産のコストダウン、品質向上・被害防止を目指すものだ。

愛媛県の農業は、主力のかんきつ類の多くが傾斜地で栽培されるという厳しい労働環境から、高齢化問題が非常に深刻だ。一方、地方のIT企業は中央企業の下請け業務減少で疲弊が進んでおり、独自ソリューションを持とうという機運が高まっている。当社が素材と使い方を提供して、愛媛の農業とIT企業の活性化につなげたい。

気象情報は上空80キロメートルまでの立体的なデータが時間ごとに変化する代表的なビッグデータだ。また、日本では毎日の朝と夕方の天気図が130年分蓄積されている。これらのデータを農業の「守りたい」「無駄を省きたい」「もっともうけたい」に使える情報に変換することが大きな狙いだ。

例えば、天気予報では静岡県東部とくくられているが、富士市では24度Cで晴れている。同時刻の富士山9合目は5度Cで雨、富士山頂は気温1度Cで雪が降っている。当社は気象庁の観測データを解析し再計算して、1キロメートルメッシュで標高補正、時間補正を加えて特定利用向け予報を提供している。情報は精度だけでなく鮮度も重要だ。

農業における気象情報の活用は、まず気象災害回避の支援、2次的に加工し病害虫予防。日常管理は現状の把握だ。短期の予報で対応できる。

農業経営として、作付け事業を考えると、どのタイミングで出荷できるように作付けするか、どんな品種を選べばよいかなどは傾向の把握。過去の気象データの分析や中長期予報の活用ということになる。

地域特性の把握も重要だ。温暖化が叫ばれているが、対象の地域がどのような傾向で変動しているのか。過去からのデータを分析すると、この先どのような作物が適するのかを把握できる。

単なる気象情報提供にとどめないで、経営意思決定支援サービスに育てたいと考えている。当初、かんきつ類で進めてきたが、米・麦、野菜、さらには養鶏へと広がりつつある。システムが愛媛の中山間部で使えるなら、全国で使えるようになるはずだ。愛媛発の、地域再生の一つの姿となることを目指している。

産業技術を活用したこれからの農業のあり方

実用化・普及へ「割り切り」必要

新日本有限責任監査法人 戦略マーケッツ事業部 エグゼクティブディレクター 原誠氏

我々は先端モデル事業の委託先事業者として、各連携プロジェクトの進捗管理や補助金の受け払い、事業とそのプロジェクトの広報などを担っている。先端モデル事業は現在16件のプロジェクトが進行している。これらは3年後に実用化するプロジェクトだ。事務局としてこれらを俯瞰(ふかん)して気づいたことが何点かある。

まず技術については実用化を目指すための割り切りがポイントになる。例えば、収穫の70%をロボットで行う自動収穫実証事業がある。自動化は70%で、残りは人手で対応するものだ。100%収穫を目指すと膨大な投資になり、実用化・普及は遠くなる。70%という割り切りが実現可能性・普及可能性を高めているといえる。

連携体制作りは、みな苦労しているようだ。企業側から見た場合、三つの壁がある。新しいことに積極的な農業者との出会い。出会った農業者が課題を明確に話すこと。農業者自らも投資する覚悟があること。この三つの壁を乗り越えないとしっかりとした連携体制は作れない。信頼関係構築のためにはお見合い期間が必要だ。

プロジェクト推進に当たっては、リーダーの力が大きい。特に、前進する力と先読みする力が求められている。

今後の展開では「組み合わせ」が重要になってくる。例えば、今回講演のあったハレックスのシステムと、トヨタ自動車の見える化・カイゼンの仕組みの組み合わせといった具合だ。生産性向上に相乗的効果をもたらすことは想像に難くない。

ほ場整備技術と自動収穫技術、環境制御技術と大量な件数のほ場管理システムといった具合に、プロジェクト同士の連携が進めば、農業の競争力強化に向け、より大きな成果が挙がるはずだ。

先端モデル事業は、本年度は異業種の技術で農業界の生産コストを下げるプロジェクトが中心だが、来年度は保存・加工技術などや流通も関わる新しいビジネスモデル開発も事業趣旨に盛り込まれる。ぜひ奮って応募いただきたい。