モノづくり力徹底強化検討会, 最新活動報告

モノづくり力徹底強化検討会~変わるモノづくり~ ビッグデータがもたらすもの 2014年10月3日

モノづくり日本会議は2014年10月3日、東京・九段北のアルカディア市ヶ谷でモノづくり力徹底強化検討会「変わるモノづくり ビッグデータがもたらすもの」を開いた。インターネットの利用が人からモノへと広がり、ドイツ発の「インダストリー4.0」が注目を集める中、ビッグデータによってモノづくりも変革しようとしている。その潮流と、今後日本のモノづくり産業は新しい道をどう開いていくかなどについて、会場からの意見も交えて論議した。

インダストリー4.0日本はどうする

「サイエンス経済」がイノベーション起こす

元橋氏

東京大学 工系研究科レジリエンス工学研究センター教授 元橋一之氏

インダストリー4・0は昨春ドイツで産学によってまとめられた、製造業の未来に関する長期的なビジョンを語ったリポートに端を発している。生産プロセスとインターネットの融合、いわゆる「インターネット・オブ・シングス(IoT)」が進む中、産業革命後の工業化の第4のステージとして4・0を位置付けている。製造プロセスからマーケティング、ビジネス価値創造までのバリューチェーン全体をネットワーク化・最適化することが特徴だ。高齢化社会で人的資源の制約が厳しくなる中、ワークライフバランスを考えるためにもバリューシステム全体の効率化が求められている。

4・0は、私たちが生活で使っているインターネットというものが、製造プロセスでつながっているというところで新しいフェーズとなっている。世の中全体が一つのプラットフォームですべてつながって動くということはすぐには難しい。具体的には通信、OSなどの標準化が必要となってくるだろう。これらはトップダウンで進むと考える。一方、ビッグデータの話をすると必ず出てくる問題だが、顧客のデータが製造のところまで全部つながるわけだから、セキュリティーやプライバシーへの対処が重要となる。

ここで日本の競争力の源泉と経済の特徴について話したい。キーコンセプトは「工業経済からサイエンス経済へ」ということ。従来の工業経済の競争力の源泉は、資本設備や工業技術など。日本はインフラやモノづくり技術で産業競争力を持ち得ていたが、同じようなことが韓国や中国で低コストでできると勝てなくなる。そこでどうしたらよいかという時に出てくる概念がサイエンス経済だ。

必ずしも工学的なエンジニアリングやナチュラルサイエンスだけでなく、ソーシャルサイエンスの分野でもビジネスモデルをサイエンティフィックに考え、価値を形成するようなイノベーションを起こしていく。ビッグデータの話で言うと、人の行動とかもマーケティングに使い、行動予測に合わせたプロモーションも行えるといったものだ。

工業経済の時代では良いものをいかに安定的に大量供給するかといったプロセスイノベーション、プロダクトイノベーションが重視されてきた。サイエンス経済では科学的な知見をベースに、ユーザーとの関係でビジネスモデルを作り上げていく。そこでイノベーション戦略が非常に重要となるし、サイエンスに裏付けられた上で「モノづくり」「コトづくり」といった両面が必要となってくる。その際に、すべてを自前主義で行うのでなく、オープンイノベーションによって、海外メーカーも含めた協業も生まれてくるはずだ。

ビッグデータでモノづくり・コトづくりを変革

個人の真意にフォーカスしマーケティング

北山氏

日本IBM エグゼクティブ・アーキテクト 北山浩透氏

製造業とビッグデータの関係について考えたい。私たちの顧客はビジネスプロセスから生まれる既存のデータを集めて分析することは十分にやってきたはず。昨今注目されるのはまず、製造設備などいろいろなものにセンサーがついて今まで取れなかった情報を集められるようになったこと。それから個人がスマートフォンなどを使って、一人一人がセンサーのように動けばフェイスブックやツイッターに情報が上がるし、また音声やチャット、メールといった膨大な情報も容易に収集・分析できる。

私たちは数千社の顧客に定期的に「有効なデータにアクセスできているか」「データから有意義な洞察を得ているか」「洞察から次のアクションにつなげられているか」といったヒアリングを行っている。そこから見るとやはり好業績の企業はデータを有効に活用している。また日本企業はデータ活用についてまだ欧米企業に比べ遅れている面もあるとみる。

データを活用しているトップ企業の多くの取り組みは、例えばIoTというか、生産設備にいろいろなセンサーがついて故障予知を行っている。分かりやすい例では自動車なら多くのセンサーがついていて、生産段階から世の中に出てどう使われているかまでトレースできている。

重要なのは製品を購入するお客さまに対して、より深い洞察ができているかということ。その商品をどういう順序で操作したか、使ってみた時の感情の変化まで洞察できるようになるのが、ビッグデータの活用ということだ。

また企業のトップに、データを活用することに投資してもらう意義を認めてもらわないとならない。欧米のトップ企業ではデータ分析のために専門組織を育てる動きが活発だ。日本ではまだ少ないが、私たちはデータの分析・活用だけでなく、そうした組織体に変革するための支援も行っている。

コンピューターそのものも、「認知する」という意味のコグニティブなシステムが、人手を介してでなく、自分で考え学習し分析する時代になってきた。グローバルで情報を集めて活用できるこのようなシステムを提供するのも私たちの仕事だ。

モノづくり・コトづくりの変革についても触れたい。モノづくりでは機能的な価値を求めるが、昨今注目されるのは感性価値やブランド力を通じたコトづくりの方かもしれない。お客さまにどういう顧客体験を提供できるかが重要となる。ITをうまく活用して感性価値、顧客体験を高めていくことができるはず。

そこで個人のデータを集め、分析して、利用者の真意をデザインするというか、個人にフォーカスしたマーケティングを行わなければならない。

パネルディスカッション
データサイエンティスト育成

顧客サービスに日本の強み

■パネリスト
東京大学 元橋一之 氏
日本IBM 北山浩透 氏
日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業
インダストリアル・サービス事業部 
インサイト&プロダクトイノベーションパートナー 安藤充 氏

■コーディネーター

日刊工業新聞社 編集委員 斎藤実

安藤氏

斎藤 4・0の長期的な展望と、日本企業はどうするかを考えたい。

安藤 製造業を担当し、モノづくりにまつわるコンサルティングシステム構築を行っている。製造業でデータがどこにあるかというと、やはり製造ラインに品質データがたくさんある。ある一カ所で特定の目的を持ってデータを取っているのでなくても、データを組み合わせて仮説を持って分析すれば、今までわからなかったことも見つけられる。またデータサイエンティストが注目されているが、専門の組織を設けているところはまだ少ない。知見のある人を教育しながら進めるのが現実的だ。

北山 データサイエンティストのスキル定義はまだきちんとできていない。データはビジネスそのものだから、ビジネスを理解することが重要で、データのポテンシャルをよく理解しなければならない。また統計的なスキルを持った人材を確保することも必要だ。

元橋 大学で統計学を学んだら、実際のビジネスの現場で使ってみないといけない。また製造ラインでは現場の勘も重要だが、製造システムが複雑化していく中、データの価値は高まっている。

斎藤 データを分析する人材が重要ですね。

北山 一般的な統計で片付けられる部分と最先端の部分はアウトソーシングや外部の人材を求め、ボリュームゾーンで新しいことにチャレンジするところは社内で育てていく、といった傾向はあるかもしれない。

元橋あ 最先端の技術が例えばシリコンバレーにあるなら、日本で全部やる必要はない。ただそれは他社も使うだろう。いわゆる競争優位を持ちたい部分は自分でやらなければならない。

北山 お客さまとの接点で情報は生まれる。必要な情報が企画や設計といった部署に供給できるような組織に変わる必要がある。

斎藤 日本はどう変わるべきでしょうか。

元橋 日本の強みは一言でいうと顧客サービス。機械がすべてできる時代となると、人は何をするのか、ということになる。しかし人のアイデアのところに戻るはず。そこで日本の強みが発揮されるはずだし、どうやるかを考えなければならない。日本は多様性を受け入れて中小企業の立場、大企業の立場、あるいは現場の立場といったように問い直せば道は開けるはずだ。

安藤 当社では自動車産業が2025年にどう変わっていくか、自動車産業各社に幅広くヒアリングしている。自動車が電子化してネットワークでつながれば、どんどんデータが取れるようになる。商品を作る時にお客さまのニーズを聞くのは当然だが、言われたものを作って出すだけでなく、企画、開発、生産、販売、サービスとどう反映していくかが重要となる。日本は基本に帰って、技術と人とお客さまの接点から学び、あらゆるものを咀嚼(そしゃく)していくべきだ。

北山 答えが今すぐに出るわけではない。こうした議論を継続していくことが重要だ。