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モノづくり日本会議 記念シンポジウム ”超”モノづくりへの挑戦 2014年11月27日

モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は2014年11月27日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京で、記念シンポジウム「”超”モノづくりへの挑戦」を開いた。同シンポジウムはモノづくり日本会議通常総会、”超”モノづくり部品大賞贈賞式との同時開催。モノづくり日本会議共同議長の庄山悦彦日立製作所相談役のあいさつに続き、”超”モノづくり部品大賞の大賞受賞企業であるパナソニックの野村剛常務が「パナソニックのモノづくりと材料型生産技術」、藤本隆宏東京大学大学院教授が「現場発の戦略論―ものづくりは日本を救うか」と題して講演した。

主催者あいさつ

今こそ投資イノベーション

モノづくり日本会議共同議長 日立製作所相談役 庄山悦彦氏
 
モノづくりに携わる人は、しっかりとした倫理観と高い志がないといいものはできない。失敗することも多いだろう。しかし、必ずやり抜くんだという気持ち、何とかしていいものにする・使いやすいものにする・お客さんに喜んでもらえるものにする、こういう心意気が大事だ
 
だが、自分の思い、心意気だけではうまくいかない。専門家をはじめ大勢の人のいろいろな意見、あるいはクレーム、問題提起などをきちんと聞いていくフレキシビリティーも不可欠だ。
 
日本の競争力は落ちたと言われるか、そんなことはない。チームワークを大切にし、何としてもやり抜く気持ち。品質への思い入れ。日本の強みはモノづくり産業にしっかりと残っている。
 
産業界は日本の強みを再認識して、何とかデフレから脱却しようと頑張らなければならない。いい意味の投資イノベーションが今こそ重要だ。
 
日本のモノづくり技術を支えているのはまさに人の力だ。今日の講演を参考にして、次なる人づくりの原動力にしてほしい。

パナソニックのモノづくりと材料型生産技術

含浸ない新プロセス開発

パナソニック常務取締役 モノづくり本部長 野村剛氏
 
パナソニックは1918年3月、松下幸之助創業者が創業し「生産・販売活動を通じて、社会の発展や豊かなくらしに貢献する」という経営理念のもと、社会の公器、お客様第一、日に新た、衆知を集める、を実践してきた。その中で、モノづくり本部は新規ブラックボックス技術、新規事業の創出を通して顧客への価値提供を目指している。ソフトの生産技術を担当するモノづくり強化センターと、ハードの生産技術を担当する生産技術開発センターで構成される。
 
当社のモノづくりは、かつてのコンベアによる大量生産から、軽くて速いセル生産、最速/最安のモノづくりへと変化してきた。現在、製造業の理想の姿を目指し、A―Nextセル生産革新を推進している。
 
ソフト生産技術は、いわゆるIEプラスアルファ。強い拠点の実現が目的だ。QCDでは、科学的品質手法を駆使して高品質を追求する。ロス削減、原価構築で最安を目指す。在庫削減を進めながら最速を達成する。このQCDを実現するため人材育成、研究会活動の実践など人・基盤づくりに取り組んでいる。
 
これらの活動について評価指標が定められている。24項目で状態を評価するモノづくりアセスメント、4項目で改善を評価するモノづくり指標を定義している。
 
ハード生産技術は「商品・工場を変える、事業を創る」ということを目的に、九つの蓄積型技術プラットフォームをいかにうまく組み合わせるかがポイントになる。技術プラットフォームのうち、結晶成長、材料技術、成膜加工、成形技術を材料型生産技術と捉えている。
 
材料型生産技術は素材にできるだけ高い付加価値を与えるために、非常に重視している。ある意味、部材メーカーを目指した取り組みだ。
 
材料技術としてはグラファイトシートや低温接合材料、成形技術では新たな繊維強化樹脂やデザイン加飾成形、成膜加工では多層膜スパッタ装置や超厚膜加工技術などの成果を挙げている。
 
受賞部品の「基材レス ガス拡散層(GDL)」も材料型生産技術の成果だ。従来のGDLはコストが高いことと電解質膜の耐久性が弱いことという課題があった。
 
ポイントはまず、炭素繊維の基材を使わず、安価なカーボン粒子とフッ素樹脂(PTFE)の配合比を最適化した材料の開発。また、解析技術を駆使し、締結圧を分散させる構造を生み出した。
 
最も苦労したのは、含浸工程のない新プロセスの開発だった。PTFEをカーボン粒子と同時に混練、押し出し、焼成する工法だが、条件の最適化まで長い時間を費やすこととなった。
 
さらにガス拡散機能、導電機能、撥水機能などの評価装置も自ら開発してきた。このような取り組みを経て、業界初の基材レスGDLを従来比10分の1というコストで実現できた。
 
水素社会の目指す姿、燃料電池を核にしたスマートコミュニティーのイメージを、一つでも二つでも、当社商品で実現していきたいと考えている。

現場発の戦略論―ものづくりは日本を救うか

戦うマザー工場 日本に残せ

東京大学大学院教授・ものづくり経営研究センター長 藤本隆宏氏
 
私はできるだけ現場を訪問し、現場発の経済学、経営学を考えている。物事を見る場合、いろいろな高さから見ることが大切だ。ものづくり現場論なら高度5メートル。天井ぐらいの高さだと、工場の流れがよく見える。1・5メートルだと働いている人の生活まで見える。
 
経営戦略論は大会社の社長室の高さ100メートル。日本経済、世界経済は3万メートル以上に上がらないと見えない。社長室にいては分からないことがある。時々は現場を、20年、50年の歴史観をもって、今起こっていることを見ることが必要だ。
 
1990年代以降、経済が停滞したが、経済が停滞したから、現場もだめなのか、全部の産業がだめなのかというと、そうではない。産業は栄枯盛衰。200年来の経済学の原則として比較優位論がある。その時々の経済条件、競争条件の変化によって、浮くものと沈むものがある。
 
造船を見ると、大手は今大変苦戦しているものの、中手は史上最高益。ここから何が分かるか。
 
まず、あくまでも質が先にあって、量は結果だと考えるのが基本的な考え方だ。そして、この間やってきたことは大きく二つ。現場がまず頑張る。日本の中手造船会社は、世界最高レベルの生産性を誇る。現場の力はむしろ上がっている。
 
問題は、それをフォローする本社があるかどうかだ。工場というのは、そこに任せれば生き残るためにじたばたする。能力構築し、生産性をがんがん上げていく。すると人が余る。余った人のために、工場長なり社長なりが走り回って仕事を取ってくる。これが、日本の中小企業や大企業の生産子会社だ。
 
船の場合もこれでやってきた。本社、経営者はしっかり潮目を読んで、いい仕事を取ってきている。
 
現場は本社を信頼している。「社長が頑張ってくれているから、わしらはとにかく生産性を上げて頑張ればいいのだ」と。日本で生き残っていく、ものづくり産業なり企業なりのあるべき姿の一つではないか。
 
もう一つは需要創造、顧客創造だ。よい設計ができるから需要を生み出せる。よい設計はハイテク設計とは限らない。遠浅の港で使える大型鉄鉱運搬船を提案し、大量受注を獲得した例がある。本社がこれをやり、現場は中国に負けない生産性を達成する。お互いに信頼し、強い本社と強い現場が重なれば、造船業だって生き残れる。
 
生産性ということは非常に大きなテーマだ。80年代は冷戦下で賃金差のない先進国間の世界競争だったので、高生産性イコール低コストだった。我々は生産性で頑張れば勝てるのだという信念をもってやってきた。
 
その信念が崩れたのが90年代だ。例えば日本と中国とでは20倍もの賃金差があった。その賃金で働く人が3年働いて家に帰っても、次の人が続々と現れる。その間、賃金は安いままだ。この時代に日本の経営者の多くは、低賃金イコール低コストとの考えが染みついてしまった。
 
我々はバブル後の20年ではなく、冷戦後の20年という非常に特殊な時代を生きてきたと捉えられる。
 
ある大きな会社が国内生産をやめ、全部中国に移管したが、現在、中国の工場は閉鎖となった。賃金がどんどん上がるが生産性は上がらない。潮目が変わったのだ。経済学でルイスの転換点というが、労働力の無制限供給の時代が終わったわけだ。
 
賃金がどんどん上がっている中国で輸出を続けようと思ったら、生産性を上げるしかない。誰が教えるのか。何とか生き残るために必死になって戦うマザー工場を国内に残さなかった会社には、コーチはいない。
 
日本に一つ強い、戦うマザー工場を残しておくことが全体の安定につながる。だからグローバル長期の全体最適経営もできる。企業も強くなり、日本の産業も残る。そして日本の現場も残る。そのために、日本によい現場を残していくことを、国も自治体も考えなければいけない。
 
懸命に頑張る現場を生かす会社と、現場を理解できず殺してしまう会社の違いは、多分10年後には会社自体の存亡につながってくる。我々は今そういう時代にいるのだ。