ロボット研究会, 最新活動報告

ロボット研究会 2015年3月13日

気持ちを知ることが新たな価値を生む
人間とロボットの関係を変える注目技術

モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は3月13日、東京都足立区の東京電機大学東京千住キャンパスでロボット研究会「気持ちを知ることが新たな価値を生む―人間とロボットの関係を変える注目技術」を開いた。脳波による感性の取得、音声による感情認識、脳波でシステムを操作するブレイン・マシン・インターフェース(BMI)といった技術の最新成果から、ロボットビジネスへの活用のヒントを探った。

はじめに

顧客経験価値の共創が重要
    ロボットビジネス推進協議会幹事 
石黒周氏

気持ちを知ることが新たな価値を生む―。これからの日本が産業的価値を生みだすときの重要なカギだ。最近、顧客経験価値の企業と顧客による共創ということが非常に注目されている。産業が利益を上げていくためにきわめて重要な観点だ。
 
従来のモノづくりは機能重視だったが、この部分は簡単にまねできてしまうので、利益を生み出しにくくなっている。顧客経験価値とは、例えば車のドアを閉める音のように、顧客が製品・サービスに接した瞬間に感じる経験の価値だ。
 
顧客はその瞬間、何を考え、どのように感じているのかを知ることができれば、企業はそれをコントロールできるようになる。いかに経験価値の共創をコントロールし、満足につなげていくか。脳科学の進歩でヒントが見えている。
 
ロボットのビジネスモデルを考えると、もはや単にモノを売っているだけでは勝ち抜けない。ロボットを顧客にサービスを提供する機械として捉えると、顧客経験価値を生み出すことの重要性が理解できる。

今回の講演は、脳波や音声を計測することによる「相手がどう感じているのかの見える化」とブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の最新動向だ。これらは機械を通して人の感情・満足を見える化し、コントロールすることにつながる重要な技術である。

感性取得による新たなモノづくりへの展開

脳波で興味・関心度瞬時評価
  慶應義塾大学理工学部准教授 満倉靖恵氏

五感を通して得られた"気持ち"が感性だ。感情、心は全て電気信号に表れる。生体信号には脳波、脈波、筋電、眼電などがあるが、いずれも微弱で、周波数も重複している。得られた信号が本当に得たい信号なのかどうかが最大の問題だ。

筋電はちゃんと信号を取って意味づけできれば、うまく制御できる。ウインクで動かす車いすは、ウインクとまばたきの信号を完全に分離することで可能になった。
 
脳波の測定は国際10―20法で部位が決められている。フルセットで128点あるが
通常は点程度。我々は好き嫌い、快不快という感情が表れるFP1という箇所のみに注目し、簡易型脳波計による感情取得に取り組んできた。
 
簡易型脳波計で脳波だけを取れるようにするためには、ノイズの除去が必要だ。ノイズは信号処理で除去している。
 
これまでに多くのルールを得てきた。「好き」「嫌い」などはそれぞれ特定の周波数を組み合わせることで評価できる。
 
得られたルールをもとに、KANSEIアナライザーを開発した。電通サイエンスジャムから製品化されている。脳波を取ってアナライザーに通すと、興味、好き度、集中度、ストレス度、眠気度が分かる。瞬時評価でき、オンライン解析も可能。このアルゴリズムを用いて、興味を持ったものを録画する「ニューロカム」も開発した。
 
ニューロマーケティングとして、興味・関心度の評価に用いられている。スピーカーや乗り心地、CM評価などだ。脳波による評価手法はリアルタイムのデータ取得が可能で、意図的操作が困難なことが特徴だ。
 
我々はシーンのどこに興味を持ったのか、アイトラッカーと組み合わせて視線先の評価に注目した興味度・関心度の評価を行っている。アンケートでは自覚されなかったことも脳波には表れていることも多い。
 
こうした研究をロボットに応用すると、例えば「あぶない」と思ったときにロボットがサポートすることや、何にヒヤリ・ハットしたのかを特定できるようになる。
 
これまで気づかなかった感性を瞬時に捉えることで、さまざまな応用ができる。まだまだ多くの可能性を秘めている。

ロボットにおける感情認識

音声から感情やストレス判定
  東京大学大学院医学研究科音声病態分析学特任講師 
光吉俊二氏

我々は、音声から病気を見つける方法を研究している。音声から感情を推定し、時間変化のパターンから健康状態を判定するものだ。
 
感情は、主な四つの要素の色と量で表現している。主張が強く熱い気持ち(怒り)を赤、単調で静かな気持ち(平常)を緑、冷たく寂しい気持ち(悲しみ)を青、明るく快活な気持ち(喜び)を黄色とし、それぞれの情動の強さを10段階で表す。これで感情を定量化できる。
 
情動反応は脳内伝達物質の増減で捉えられる。一方、人は相手の声や表情から相手の気持ちを読み取っている。そこで、音声から感情を推定する音声感情認識技術の開発に取り組んだ。
 
音声の状態や韻律などを脳の情動活動や主観と比較・分析した音声パラメーターをもとに、音声から感情を推定するプログラムを作成した。音声から抑揚と声帯の状態を解析し、情動を定量分析して感情を推定するのだ。
 
音声から感情が分かるのなら、ストレスや気分障害の判定ができるだろう。音声病態分析技術は感情の変化を時間経過から分析し、抑うつ状態、ストレスを判定する。精神の健康状態、認知症、ストレス状態の判定から、順次、心疾患、脳疾患、神経病、精神疾患、生活習慣病などに拡大する考えだ。
 
音声によるストレス自動判定について、自衛隊の協力を得て、自記式心理テストとサイトカイン計測で異常の疑いがある人を医師が面接する方法と精度の比較を行った。その結果、自動判定ではうつ病の疑いがある人を確実にピックアップできたが、そうでない人も拾っていた。一方、アンケートでは見逃していたケースを拾っていた。
 
今後の応用として、未病対策としての自動問診システム、外来受付病態分析、健康診断システム、救急受付コールセンター病態分析システム、介護ロボット、家庭用病態分析サービスなどの展開に期待している。
 
今年12月から、50人以上の事業所では従業員のストレスチェックが義務化されることからも分かるように、メンタル不調の未然予防は重要課題となっている。音声病態分析技術の活用によって疾患の早期対策が可能となれば、本人にとってプラスになるだけでなく、社会コストの低減に大きく貢献できる。

ブレイン・マシン・インターフェースによる神経治療

正しいフィードバックが学習促進
  慶應義塾大学理工学部准教授 牛場潤一氏

我々はブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を用いて、脳卒中による片まひを治すことを研究している。
 
脳の状態をリアルタイムにモニタリングし、脳の活動が正しく出たときだけ、ロボット装具が手の運動をアシストする。脳に正しいフィードバックを返し、より適切な脳の状態が出やすくなるように促していく訓練だ。
 
運動機能が廃用手から低補助手になると可能な生活動作のパターンは格段に増える。そこがターゲットになる。
 
BMIによるリハビリは脳に本来はまだ使えるパスウエイが残っているのに使えなくなっているのをいい状態に持って行こうということ。脳の可塑性原理に働きかけて傷から免れた部分を機能的に使えるように学習させていくプロセスだ。
 
手を動かそうとするときの脳活動は、脳波から運動野の興奮性を推定して判断している。右手の指を動かそうとすると、左半球の運動野に変化が生じる。
 
まひの重い患者に「指を伸ばすようにイメージしてください」と指示し、脳活動が運動しようと変化を示したときだけ、モーターで指を開かせるようにアシストする。脳活動が変化しないときはアシストしない。興奮性を上げられたときだけアシストして、その状態が出やすくなるように訓練するのだ。
 
BMIは脳活動が正しく出ているときにフィードバックし、動きをアシストする。そうすることが脳をチューニングすることに作用する。フィードバックするタイミングの制御が重要なポイントになる。
 
筋活動が出るようになれば、脳波を使わなくてもよくなるので、リハビリは次のステップに移行する。
 
BMIについて、脳波の状態と関係なくアシストすればよいではないかと言われるが、それでは10日間訓練しても運動機能はよくならない。
 
脳科学をベースとしたBMI治療は重度の片まひに対する運動訓練方法として有望なことから、目下NEDOの支援を受けて医療機器化に取り組んでいる。また、我々はジストニア(書★痙★=しょけい)の改善や脊髄損傷、パーキンソン病など、脳卒中以外の運動障害疾患にも適用できると考えている。