ネイチャー・テクノロジー研究会, 最新活動報告

第6回ネイチャー・テクノロジー研究会シンポジウム 2013年12月9日

2030年のライフスタイルが教えてくれる「心豊かな」ビジネス


パネルディスカッションでは、兵庫・豊岡市の事例を中心に、これからの製品・サービスのあり方について探った。

モノづくり日本会議のネイチャー・テクノロジー研究会は2013年12月、都内でシンポジウム「2030年のライフスタイルが教えてくれる『心豊かな』ビジネス」を開いた。同名の書籍を出版したのを記念して、執筆した研究会メンバーの澤村治道NECエナジーデバイス社長らが講演した。また、兵庫県豊岡市を舞台とした産学官連携による研究の事例をテーマにパネルディスカッションを行った。


心の豊かさと企業成長の両立は可能か―企業と生活者の間のギャップ

社会に受け入れられる企業革新を


NECエナジーデバイス社長 澤村治道氏

とかくギャップがあるとされる企業の思いと生活者の意識だが、うまくバランスさせられると考えている。私はNECで生産設備の開発や管理などを手がけてきた。モノの豊かさが求められた時代は、企業側もそれに応えようと、できるだけ速くて大量に効率良く生産できる設備を用意して、そんなモノづくりを良しとしてきた。
 
実は、心の豊かさとモノの豊かさという、生活者と企業で求めるものの乖離(かいり)はバブル経済期あたりから始まっていた。約2年前、石田秀輝東北大学大学院教授から「企業の役割は人を豊かにすること。ライフスタイルに責任を持つ必要がある」とうかがい、大変な衝撃を受けた。

いざイノベーションをとなると、企業には三つの壁が立ちはだかっているものだ。まず、技術を磨き上げても生活者が求めるものと合致するか分からない。二つ目は、未来像を描く際に従来通り、自社の技術を出発点にしてしまう点。三つ目は、環境に配慮したつもりでも実は負荷を低減できていない「エコジレンマ」の問題がある。

これらを打破するには未来に向けて解決しなければいけない制約条件をしっかり押さえることが大切。つまり環境エネルギー問題、ひいては人類の生存問題であり、それらを認識したうえでまずライフスタイルを描く必要がある。メーカーならまず技術を変えたがるものだが、まず行動や生活を変えることが大事だ。

NECエナジーデバイスは車載用のリチウムイオン電池などを製造しおり、世の中でバッテリーがどんな形で使われるようになるのかを自分なりに理解し、技術開発を進めていきたい。イノベーションは今までの技術の延長線ではなく、社会に受け入れられるものを考えて進めていきたい。

バックキャスト思考でライフスタイルをデザインする

「自然を活かす」に商機


東北大学大学院 環境科学研究科准教授 古川柳蔵氏

このままいけば環境制約や人間活動の肥大化といったリスクのピークとなる2030年。それでも心豊かに暮らすために、必要なテクノロジーを自然に学び、モノづくりに生かす「ネイチャー・テクノロジー創出システム」を研究している。
 
将来の社会の姿を思い描く際、現在の延長線上で考える「フォアキャスト思考」になりがちだが、われわれは未来の状況をイメージして考える「バックキャスト思考」を採っている。ライフスタイルを描くにあたっては、人口問題や二酸化炭★(CO2)排出といった環境の制約を踏まえる、技術の説明に終始しない、新規性を尊重する、自分の所属組織を背負わない点などをポイントにする。
 
将来時点での問題は何かを明確にすべきで、制約の中でどう豊かに暮らすか考えることが重要だ。新しく考えたアイデアとして、戦前に20歳になったお年寄りを対象にした「90歳ヒアリング」があり、03年の「グッドデザイン未来づくりデザイン賞」に輝いた。
 
ヒアリングを通じて、昔はものすごく不便だったりいろいろ制約がある中で、知恵と工夫で乗り越えてきたことが分かる。利便性が問われる現代は、自分は余り手を汚さずに済む。半面、かつての生活で得られた心の豊かさが失われてきた。昔は豊かさが多様だった。企業は今後、便利なものなら何でも提供すればよいのではなく、人々に工夫する喜び、何か自分の手でつくる楽しみを提供できればと考える。そこにビジネスチャンスがある。
 
持続可能なライフスタイルとは何か。私は「自然に生かされる」「自然を活かす」「循環」「伝承」「制約をポジティブに捉える」「成長」「役割」、こういう要素が暮らしの中に入っているものが「心豊かな暮らし」だと考えている。

パネルディスカッション
産学官連携によるネイチャー・テクノロジーの展開-兵庫県豊岡市の場合

世界に通じる新しい価値創出へ

豊岡のカバン産業でコトづくり

■パネラー
豊岡市 環境経済部環境経済課課長補佐 池内章彦氏
東北大学大学院  環境科学研究科助手 岡田宏一氏
デンソー デザイン部車載システム室開発課長 宮地良治氏
モデレーター 東北大学大学院准教授 古川柳蔵氏

 


池内氏

池内氏 豊岡市では環境都市「豊岡エコバレー」と豊岡ファンを増やす「大交流」を掲げ、若者を呼び込み、環境と経済の共鳴による持続可能な地域経済・産業への取り組みを進めている。城崎温泉や但馬牛、カニといった地域資源に恵まれているが、エコバレーの原点は、国の特別天然記念物であるコウノトリの人工飼育が豊岡で始まった昭和40年にさかのぼる。
 
人間とコウノトリの共生に象徴される環境こそが、経済を活性化し、市民の豊かな心を育むまちだと考え、大規模太陽光発電事業や新規ビジネスの創出支援といったさまざまな施策を展開している。
 
まちづくりを進める中で石田秀輝東北大学大学院教授の「何かと何かの置きかえではなく、足場となる暮らしの形を変えることこそが持続可能な社会をつくる」との考え方に共鳴し、いろいろとご指導いただいている。
 
中貝宗治市長は「豊岡で暮らすことは新しい価値を提示することといえるようにしたい」と強調する。ライフスタイルの重要性を市民や企業に広めつつ、ネイチャー・テクノロジー研究会の知恵とアイデアを借り、世界に通じる新しい価値を生み出したい。


岡田氏

岡田氏 豊岡市は高い環境マインドを持ったまちであり、市の若手の皆さんと一緒に、ライフスタイルや心の豊かさに関する研究を進めている。いにしえの知恵に学びながら新しいものをつくる「90歳ヒアリング」を市内で実施した。
 
その結果も踏まえて(1)地元の食材を使って料理のおすそ分けやレシピのシェアをする"共同キッチン"(2)バイオマスなどを活用する循環型エネルギーの推進(3)ストーリーを持つ新商品づくりによるカバン産業の活性化―の三つのライフスタイルを描いた。新しい価値観を生み出す基盤をつくりたい。
 
全国の多くの自治体が抱えている高齢化の問題や過疎の問題などには、昔の生活を含めて自然のリズムや自然との共生といったことを踏まえて対応していく必要がある。
 
今はボタン一つで何でも手に入るといった時代だが、制約条件下で何か一つ手間をかけたりすることで心の豊かさが得られ、今までにない生活がみえてくる。


宮地氏

宮地氏 会社では、カーナビゲーションなどの商品企画・戦略のデザインを手がけている。当社を含めて、日本の企業はアジア諸国の台頭などに対応して「コストが高いからこその確かなブランド力」を創出していく必要があるのではないか。
 
こうした観点から、豊岡の名産品であるカバン産業の活性化に向けてランドセルにかかわるライフスタイルを提案したい。いわゆる技術の"モノ発想"から、ストーリーをもたせた商品づくりという"コト発想"に変える必要があるだろう。高い品質を持ちながらも、さらに使えば使うほど愛着の沸く商品づくりという仕掛けをしたい。
 
なぜランドセルに着目したかといえば、小学生が6年間を通じて使うことで、おのずと高品質がアピールできるからだ。
 
高耐久性はもちろん大事だが、補修対応まで含め高価格に見合うブランドを構築する。大きな市場を獲得するには、自治体の支援も必要だろう。学校の推奨ランドセルとすることで品質の向上・確保や実績づくりができるだろう。

ネイチャー・テクノロジー研究会

「間」を研究 新たな事業の芽に


東北大学大学院環境科学研究科教授 石田秀輝氏

生活者がモノよりも心の豊かさを求める中、企業も行政もそんな人の豊かさを実現すべき役割を担う。環境・エネルギーなどの状況は厳しさを増す一方で、それをいかに実現するかが課題だ。
 
人々は厳しいからといって単にがまんするのではなく、知恵と工夫で乗り越えられる制約は前向きに受け止め、対応したい。それによって愛着や新しい価値観が生まれ、人間として育てられる。
 
本来、自分でできることまでテクノロジーやサービスに依存することを懸念する。ライフスタイルには依存型と自給自足のような自立型があるが、自立型に移行するまでの中間の暮らし方はないか。「間」を研究すれば、企業にも新事業の芽があると思う。

活動紹介

第2回コンテスト実施


大日本印刷 事業開発センターMI室エキスパート 古後恭子氏

ネイチャー・テクノロジー研究会は、「ライフスタイルデザイン」と「モノづくり」の二つのワーキンググループ活動を含む月次研究会を行っている。普及啓発活動では、第2回「2030年の『心豊かな』ライフスタイルコンテスト」(環境省など後援)を実施する。対象は子どもからおとなまでで、300―400字でライフスタイルを描き、イラストや図表などを添えていただく。締め切りは4月11日で、賞金総額100万円。前回の376点をしのぐ多数の応募をお待ちしている。