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米国の政策動向と今後の展望 2015年6月3日

モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は6月3日、東京都港区の東京コンファレンスセンター・品川で特別講演会「米国の政策動向と今後の展望」を開いた。米ワシントンを拠点に、政治・経済の調査、分析、コンサルティングを手がけるグローバル・ポリシー・グループ(GPG)のダグラス・J・バーグナー社長とイアン・C・グレイグ最高経営責任者(CEO)の両氏を講師に招き、オバマ政権と議会の動向、ビジネス関連政策の現状と見通しなどを解説いただいた。


サイバー攻撃対策、産官で情報共有

熟練労働者不足が深刻 産学で人材育成

  グローバル・ポリシー・グループ社長 ダグラス・J・バーグナー氏

  グローバル・ポリシー・グループCEO イアン・C・グレイグ氏

▲バーグナー 当社は1995年設立のコンサルファーム。日本の企業とも多くの付き合いがあり、規制や環境変化についてアドバイスを提供している。

今米国で何が起きているのか。政治では昨年11月に上下両院で共和党が多数を握ったことで、大きな変化が起きた。この3年間、膠着(こうちゃく)状態が続いていたが、妥協が生まれてきた。両党とも来年の選挙に向けて、今は建設的に協力している。オバマ大統領は残り任期が1年半となり、影響力が低下している。
 
▲グレイグ 上院は共和党が54人で、民主党は44人。ただ、思うように運営するには60人が必要なので、民主党と協力しないと法案は通過しない。
 

下院は共和党が245人でかなりの多数を占める。下院共和党が難しいのは民主党対策ではなく、党内対策。保守派の影響力が強く、彼らをうまくまとめないと法案を通過させられない。穏健民主派が協力したものについては、法案がかなり通過してきている。
 
▲バーグナー 米経済は回復期を迎え7年目になる。減速するものの今年も回復は続くと見られている。雇用も良好。第1四半期のマイナスは大規模な港湾ストライキ、ドル高の進行、厳しい天候という一時的要因だ。
 
米連邦準備制度理事会(FRB)が秋にも利上げしそうだが、小幅な利上げは米国経済に大きなマイナスにはならないだろう。経済危機の際、FRBが景気刺激策として買い取った3兆ドルの資産の売却の仕方が懸念材料だ。
 

国の予算プロセスは今のところ落ち着いており、10月1日までに両党間でまとまるだろう。債務上限問題に関して、年末にかけて共和党がオバマ大統領に歳出削減を迫る可能性はある。
 
最大のリスク要因は海外にある。成長率が急減速している中国経済が懸念される。ギリシャや東欧などの問題もあるが、現在、米国経済は良好なので安心できる状態にある。
 
▲グレイグ 米製造業は80年代以降大きく落ち込んだが、最近は回復が見られ、米国内への投資も進んでいる。産業界は道路や交通システム、港湾などのインフラ整備を要望しているが、財政調達方法が見つからず、何年もできていない。法人税率は非常に高い。環境規制は強化され、自由貿易協定(FTA)の動きは遅い。
 
熟練労働者不足は最も深刻な問題だ。NNMIという製造業ハブのネットワークを作る取り組みの中で、産学が協働し技術開発とともに、熟練工の育成を進めている。ほかにも人材育成関連の政策が検討されている。
 
▲バーグナー 政府も共和党も35%という法人税率を下げたいのだが、代替財源が見つからない。また、50ぐらいある優遇税制の期限が年末に切れるので、延長するには他の財源が必要となる。
 
重要な貿易政策である環太平洋連携協定(TPP)はかなり議論が進んでいる。日米合意の前に、オバマ大統領は議会による貿易促進権限(TPA)の承認が必要だ。抵抗もあるが、GPGでは議会はTPAを与えるだろうと見ている。
 
エネルギー政策は非常にいい状況だ。安価なガス、石油が経済を底支えしている。シェールガス、シェールオイルとも拡大している。2017年には液化天然ガス(LNG)の純輸出国になり、その10年後には石油の輸出国になる可能性もある。現在は原油輸出を禁止しているが解禁されるかもしれない。ただし、フラッキングに伴う公害問題がエネルギー革命推進のリスク要因だ。
 
▲グレイグ 気候変動問題はオバマ大統領にとって最重要課題だ。温室効果ガス(GHG)削減では、自動車は燃費基準を設けて車両ごとの規制を強めようとしている。発電所での削減は共和党が反対しているが権限は米環境保護局(EPA)が持っている。 

オバマ大統領は、米国がコペンハーゲン会議で約束した20年に17%、さらに中国訪問時に表明した25年までに26ー28%削減という高い目標達成のため、中国やインドと連携して前に進もうとしている。
 
年末のパリ会議でより大きな削減目標を約束することは難しそうだ。製造業などに大きな影響があるので、追加的な削減は産業界が強く抵抗するだろう。
 
▲バーグナー ここ半年でサイバーセキュリティーの問題が深刻化している。電力インフラ、金融システムをはじめあらゆる分野が、さらには多くの政府機関がサイバー攻撃を受けている。独禁法の適用を除外し、業界内、業界と政府の間で、サイバー攻撃に関する詳細な情報共有を認める法案の策定が超党派で進められている。
 
オバマケアと呼ばれる健康保険制度は大統領の看板政策だ。共和党は撤廃を目指している。6月に最高裁が新しい判断を下すが、政府支持なら問題ない。却下した場合は直後に何百万人もの人が健康保険を失い、大きな混乱をもたらす。
 
世界の複数の場所で深刻な外交問題が起きている。まず、プーチン大統領によるクリミア・ウクライナ東部の問題。さらにロシアは欧州ばかりでなくカリフォルニアの空域にまで空軍機を飛ばしており、米ロの緊張が高まっている。
 
日米関係では、4月に新しい軍事協力協定が発表された。安倍首相の訪米を経てアジア太平洋地域での日米協力の強さが示された。
 
気候変動分野では協力が進んだ中国だが、非常に難しい問題に直面している。中国の軍備増強、東シナ海・南シナ海の行動は単に東アジア地域だけでなく、グローバルに重要な意味を持つ。アジアインフラ投資銀行(AIIB)問題もある。
 
中東問題はIS、シリア、イラクによって今までになく悪化した状況にあり、将来的にも不確実性が高まっている。イランの核開発問題の交渉は3月から6月末に遅れている。イランとサウジアラビアの対立も深まっていることが懸念されている。
 
▲グレイグ 16年は選挙がある。11月に下院は総選挙が行われ、上院は3分の1が改選を迎える。下院では共和党が過半数を取るだろう。上院は改選を迎える34議席中、共和党は現在24議席持っている。共和党は再度多数党になれるのか。民主党が上院で多数党になると、また上下院でねじれが生じる。
 
大統領選は、民主党はヒラリー・クリントン氏が最も有望で、先頭を走っている、共和党は非常に保守的な見解を持った人から中道寄り、ビジネス寄りの人もおり、どうなるかはまだ全く見当がつかない。指名争いは激しい戦いになる。

コーディネーター

産業界注目の政策動向・技術
日本向け情報提供 支援
  SRIインターナショナル日本支社 シニアアドバイザー 土谷庫夫氏

■講演を終えて
特別講演会をコーディネートしたSRIインターナショナル日本支社シニアアドバイザーでGPGの日本窓口も務める土谷庫夫氏に、今回の講演を振り返ってもらった。
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講演会のタイミングは、昨年の上院選挙で生じた政権与党と議会多数党のねじれ現象下、大統領の裁量余地が減少し、また、次期大統領選の候補者が乱立している途上で、先の見通しが難しい状況での開催だった。GPGは毎年2回訪日するので、講演内容の行間ニュアンスの説明や適切なコンタクト紹介など、日本企業への情報支援サービスに応じたいとしている。
 
GPGのバーグナー社長は20年前までSRIのワシントン事務所に勤務し、私と旧知の間柄だったこともあり、今回、講演会をセッティングすることになった。日本の産業界が注目するワシントンでの政策動向、産業や生活シーンに劇的な変化を引き起こす技術を輩出する西海岸・シリコンバレーのSRIからの新技術発信という両機能をもつ同氏の講演は有意義な情報を届けられたと思う。