人材育成関連事業, 最新活動報告

人材育成研究会 2015年8月5日

インダストリー4・0時代に向けたモノづくり人材の育成
東京版デュアルシステムの意義

モノづくり日本会議は8月5日、東京・港南の東京コンファレンスセンター・品川で人材育成研究会「インダストリー4・0時代に向けたモノづくり人材の育成 東京版デュアルシステムの意義」を開いた。学校での座学と企業での職業訓練を並行して行う教育手法で、ドイツでは伝統的に行われている。日本でも一部工業高校などで導入されており、今回は先行して試行した東京都立六郷工科高校が現状と今後の方向性について紹介したほか、率先して実習生を受け入れて卒業生の採用も行っている地元・東京都大田区の企業の声も聞いた。


企業ニーズに応じた教育重要

  日鉄住金総研客員研究主幹 山藤康夫氏

現在、製造業でのパラダイムシフトが先進国を中心に起きている。背景として革新的な科学技術の進歩があり、ベンチャー企業などにも製造業に取り組んで行こうという動きがある。製造業にはフォローの風であるが、逆に伝統的に製造業が強いドイツは危機感を持って受け止めており、産学官連携でインダストリー4・0に取り組んでいる。

ドイツの製造業の特徴としてR&Dや教育訓練の外部化などが挙げられ、中堅・中小企業も下請けではなく、部品・製品を国内生産し輸出している。「職業教育が品質保証書である」と国としての自負があるようだ。その教育訓練の中核がデュアルシステムだ。教育手法としてのデュアルシステムはドイツでは「職業訓練の社会的地位の高さ」につながっていて、高い評価を受けている。このような風土を日本でも構築しなければならない。製造業中心で経済成長してきた日本だが、海外生産へシフトし脱工業化が叫ばれた結果、産業の空洞化や、製造業を軽視する風潮があったからだ。

モノづくり教育に大きな役割を果たすはずのデュアルシステムは日本では今回講演いただく六郷工科高校などで導入が始まっている。これから期待するのはデュアルシステム科の全国的な拡大、他の科にもデュアルシステムを導入し、企業ニーズに応じた教育ができること。学生にとっても実践的な就業能力を高める高校教育を望む。

導入から11年経った六郷工科高校におけるデュアルシステム科の現状と課題

卒業生に聞き取り調査・プラン見直し
教員も生徒目線に立ち「質」の改善を

  東京都立六郷工科高校校長 佐々木哲氏

当校は2004年春に開校し、デュアルシステム科も同時にスタートした。今春に9期生が卒業し、いま12年目に入っている。7期生までは各学年の在籍数30人、8期生からは35人。9期生を例にとると卒業生は22人、就職者が19人、進学ほかが3人。就職者のうち14人はデュアルシステムでの実習を受け入れていただいている提携企業に入った。
 
私は09年に副校長で当校に着任し、いったん離れて今春校長に就いた。最初の時は、開校以前に机上で作ったプランが実施に移されていたため、なかなかうまくいっていないと感じた。中途退学者もかなりいるような状況だった。そこで卒業生からの聞き取り調査を行うなどして、プランの見直しを図った。
 
例えば当初のカリキュラムは10日間のインターンシップを3回組んでいたが、5日間2回に変更するなど。これはインターンシップで学校を離れると他の科の生徒たちと生活の時間帯が合わず、学校行事や部活などに参加しづらくなるといった声があったから。他には「学校で学んだことが現場で役に立たない」「先生も企業でやってみれば生徒の気持ちがわかるはず」といった指摘もあった。
 
就業訓練を受け入れてくれる企業を見つけてくるのは教員の仕事。幸い当校のある大田区はモノづくり企業が集積している地域で、本日のお二方のような熱意のあるみなさんにシステムが支えられている。生徒たちは地域企業で学ぶ期間を通じて、現場の職業人とコミュニケーションし、自分たちがなすべきことに気付く。さらに就職先を見つけ、その先の夢も持ってほしい。例えば、技能を生かして将来経営者になろう、といった夢だ。また、たとえ進学したとしても、企業で働いた経験は無駄にはなっていないはず。
 
一方で大切なのは教員の力量がデュアルシステムの運営を大きく左右するということ。教員も生徒の目線に立って、教育の質の改善に取り組んでもらいたい。そのために夏季休業期間などを活用して企業研修派遣を行うし、各人は技能の国家資格取得にもチャレンジしてほしい。
私たちももっと中学校を訪問し、働きたい意欲がありモノづくりが好きな子供たちをデュアルシステム科に導きたい。

パネルディスカッション ~モノづくりの採用・育成の課題~

  机上より現場 失敗に学ぶ-諏訪氏
  日本の技術のレベル支える-大石氏

■パネリスト
 東京都立六郷工科高校校長 佐々木哲氏
 ダイヤ精機社長 諏訪貴子氏
 大石電機工業社長 大石哲也氏
■モデレータ 
 日鉄住金総研客員研究主幹 山藤康夫氏

▲山藤 六郷工科高のデュアルシステムのインターンシップを受け入れている企業2社においでいただいた。
 
▲大石 船舶用の照明など電気機器を企画開発から製造まで一貫して行っている。六郷工科高とは東京商工会議所に紹介を受け、1期生を受け入れるなど10年以上のおつきあいだ。生徒にはベテランとペアを組ませ技能を吸収してもらう。当社に入り、主任にまで昇格している者もいる。
 
▲諏訪 自動車のゲージなどの精密加工がメーン。2003年に父の代から社長を引き継いだが、当初会社は職人が中心で若い人は少なく、07年くらいから人材育成を本格化した。インターンシップの生徒には机上での理論よりもまず現場に入ってもらう。実習を経て入社したら、若手の相談係や私と交換日記を交わすなどコミュニケーションを図っている。
 
▲山藤 若い世代のモノづくりへの考え方や気質をどう感じるか。
 
▲諏訪 当社の年齢構成は今年、きれいなピラミッド型になった。将来の安定にはつながるが、まず現在の教育が重要だ。若い子は先輩に質問ができないことも多い。きちんとコミュニケーションできるのはサービス業の経験者であったりする。当社は現場の製品作りにいきなり取り組ませ、失敗から学んでもらう。チャレンジしない場合にだけしかっている。
 
▲大石 世代間ギャップは確かにある。徒弟制度的雰囲気が残っているのを改め、ボトムアップでの改革を進めている。今のモノづくりはマニュアルを使えば8割方は製品を組み立てられる。残り2割は周囲や先輩たちとのコミュニケーションがカギを握る。私たち中小と異なる大企業のメリットは同期入社の人数が多く、活発な会話や意見交換ができることと思うが、これは重要だ。
 
▲佐々木 企業での体験は生徒たちにとって間違いなく役に立っている。例えば技能検定などに挑戦しようという意識が芽生えるし、自分で図面を書こうとCADを学んだり、3Dプリンターを使いこなす生徒も出てくる。ただそうした感覚を持てるようになるまでには少し時間がかかる。それまで受け入れ企業には迷惑をおかけしているのだが。
 
▲山藤 モノづくりが好きになる生徒を見つけることは意義がある。一方で先生方も意欲的に指導している。
 
▲佐々木 企業に数日研修に行ってもらうだけで教員の意識は確実に変わる。やる気のある生徒を見て相互作用を受け、自分たちが生徒を引っ張って指導しようという気概も出てくる。ただ年配の教員は外にあまり出たがらない。若手に地域企業にどんどん出て行ってくれるよう期待している。何年かじっくり取り組めるよう異動年限の弾力化も必要だ。
 
▲山藤 モノづくりそのものが大きく変化する中で、デュアルシステムによって生徒も教員もいち早くその潮流を現場体験できる。
 
▲大石 当社の仕事にはいろいろな要素があり、感覚的に体得するには20年かかるかもしれない。若いうちからやってもらわないと。日本のモノづくりを見回すと、技術レベルが保てなくなっている分野も多い気がする。デュアルシステムは先生方にも大きな負担をかけているが、生徒が企業に行って変わっていくのを見ることは素晴らしいこと。これをやらないと日本のモノづくりは持たないのではないか。全ての学校に取り入れてほしい。
▲諏訪 企業側にもメリットは大きい。例えば通常高卒を採用すると、社会人1年生として、働くことの意味から教えなければならない。デュアルシステムを活用すればそこが省けるし、採用後も仕事が長続きする。また、いろいろな業種を体験できる仕組みがあるとよいと思う。悩んだ時に、モノづくりの道も選択肢の一つとなる。
▲佐々木 リーディング校として10年かけいろいろな挑戦をしてきた。デュアルシステムは教育の本来あるべき姿ではないか。工業高校だけでなく高等教育にもっと広げていくべきだと思う。また当校では東南アジアなど海外へのインターンシップも検討している。