新産業促進検討会, 最新活動報告

第5回新産業技術促進検討会 2015年7月22日

NEDO ナノ炭素材料応用製品位術ロードマップ

モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は7月22日、東京都千代田区のホテルグランドパレスで第5回新産業技術促進検討会「NEDOにおけるナノ炭素材料応用製品技術ロードマップ」を開催した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は昨年度、二次電池、透明導電膜、安全性に関してナノ炭素材料応用製品技術ロードマップを策定した。本検討会では最新事例の解説を交え、ナノ炭素材料の応用製品開発の今後の展開を探った。


はじめに ~大きな市場形成これから~

  新エネルギー・産業技術総合開発機構電子・材料・ナノテクノロジー部長 
山崎知巳氏

休憩時間中に行われたデモ展示にも高い関心(ヤマハ)

NEDOでは1998年からプロジェクトを立ち上げて、ナノ炭素材料の実用化、産業化を目指している。

中でもカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンなどを念頭に、基盤技術にとどまらず、量産技術や複合材料の開発、応用技術の研究開発を進めてきた。また、飛散するナノ炭素材料の影響評価など、安全性の評価技術についても取り組んでいる。

ナノ炭素材料の実用化に関しては、世界的な開発競争の結果、一部の製品に、すでに実用化されたものも出てきている。しかしながら、大きな市場を形成するアプリケーションはまだこれからだ。ナノ炭素材料の優れたポテンシャルを引き出す応用技術の更なる開発に期待している。


NEDOの実用化推進委員会について

ロードマップ策定へ全項目調査

  実用化推進委員会委員長筑波大学数理物質科学研究科教授 藤田淳一氏

講演後のパネルディスカッションでは聴講者との意見交換も

「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」が昨年スタートした。実用化推進委員会は、プロジェクトの助成事業などについてNEDOのサポートの有効性を議論して実用化を推進することと、応用製品技術ロードマップの策定を担っている。

ナノ炭素の研究開発は欧米諸国だけでなく、中国、韓国も精力的に取り組んでいる。特許件数では、この数年、中国が急激に増やしている。特許の内容はCNT、グラフェンとも圧倒的に合成技術、プロセス特許が多く、電子デバイス、バッテリーなどが続く。日本も独自性を出さなければならない。
 
そこで、ナノ炭素材料を応用した製品実用化の将来予測に取り組んでいる。応用製品の要望に応えられるナノ炭素材料を見極め、企業の実用化研究の参考にしてもらうためだ。
 
ナノ炭素材料の応用製品開発に関する研究成果や実用化例の動向、応用製品市場の現状と将来予測を踏まえ、2030年までの応用製品技術ロードマップを策定する。調査は、応用製品群を17項目に分類し、昨年度は透明導電膜、二次電池、安全性評価の3項目について実施した。今年度は残りの全項目について調査に取り組んでいる。

長尺MWCNTシートを用いた薄型ストレッチャブル変位センサーの開発と応用提案

柔らかく伸び縮み 人と親和性高い素材に

  ヤマハ第2研究開発部素材素子グループグループマネジャー 鈴木克典氏

通常のCNTは長さがマイクロメートルオーダーだが、我々は数百マイクロメートル以上と長尺のCNTを用いている。さらに紡績できることが特徴で、シート状にして利用している。
 
我々はマルチウオール(MW)CNTシートと特殊なエラストマーから可変抵抗ゴムを作った。MWCNTシートは静岡大学との共同研究の成果である。付加価値とMWCNTの特異性が結びついた、柔らかく伸び縮みする、人との親和性が高い素材だ。
 
この素材をどう生かすか。40兆円ともいわれるスポーツ・ヘルスケア市場に向け、ウエアラブルセンサーによる人体計測機器に応用し、それを用いたサービスに展開したい。
 
センサーはCNTシートを特殊なウレタンゴムで挟んだ3層構造の複合材。皮膚に追従する柔らかさだ。型抜きでき、1・5ミリメートル幅でも可能。
 
引っ張ると歪み量に応じて導電パス量が変化する。2倍に伸ばしてもパスは切れない。歪みと抵抗の関係は非常にリニアで、ヒステリシスも少ない。
 
動特性は、評価装置限界の29ヘルツ(=毎分1740回転)でも良好な追従性を示す。耐久性は18万回まで確認している。
 
普通の加速度センサーと異なり静止状態が分かる。肘関節の動きはもちろん、呼吸周期の計測もできる。リアルタイム性があり、導電ニット配線によって配線問題も解決した。
 
応用の例として、協業メーカーとロコモティブシンドローム対策用に正確な動作での運動のための可視化ツールを開発した。これは既に有効性検証試験がスタートしている。また、データグローブへ応用し、運指を可視化して、演奏評価や解析ツール、演奏指導ツールへの応用を検討している。
 
技術普及のため6軸モーションセンサーとCNTセンサーを組み合わせた開発キットを発売したところだ。多彩な強みを持つ企業とオープンに連携し、広く世の中に貢献できる事業に展開していきたい。

カーボンナノチューブによる柔軟で透明なエレクトロニクスとその展望

室温成膜と印刷技術で安価にデバイス製造

  名古屋大学エコトピア科学研究所教授 大野雄高氏

CNTは金属と半導体という二つの性質を持つ。

半導体としては動作可能温度、高移動度から理想的な材料だ。薄膜にすることによって、CNT1本1本の特性のばらつきは平均化される。金属的な特性を使えば透明導電膜や配線、電気化学センサーの電極などに、半導体的な特性を使えば薄膜トランジスタやバイオセンサーなどに応用できる。
 
CNTの透明導電膜は優れた光学特性を有する。透過率が高く、強い光のもとでもクリアな画像が得られる。簡単なプロセスで薄膜を形成し、パターニングが可能だ。
 
我々は成膜に浮遊触媒CVD法を用いている。触媒原料と炭素源を成長炉の中に気相で流し、濾紙にCNT薄膜を形成する。できた薄膜はほとんど全ての基板に転写できる。
 
この透明導電膜をタッチセンサーなどのデバイスに使う場合、パターニングが欠かせない。濾紙にパターニングしておけばコストの高いリソグラフィーが不要となる。濾紙は何回も使える。
 
CNT薄膜はITOと同等かそれ以上の性能を得られるようになってきた。フレキシブルで、立体的形状も成形可能なので、新しいデバイスの実現、デザイン性の向上に結びつく。プラスチック基板の上に透明な集積回路を形成することも可能になってくる。
 
室温成膜と印刷技術を組み合わせれば非常に安くモノをつくれるようになる。ただし、現在はCNTをインク化する際の超音波分散によって短尺化が起きてしまい、本来の性能が得られない。
 
我々のCNT薄膜トランジスタ自体は移動度600平方センチメートル/ボルト秒という性能があるので、短尺化の問題を解決したい。

CNT材料の最大の特徴は簡単なプロセスで高性能なものができるということ。初期投資が少なくて済むので、大企業に限らず中小企業も容易に参入できる分野だ。何かアイデアがあるなら、喜んで共同研究や技術相談に応じたい。

宇宙エレベーター実現に向けて

長尺・高強度のCNTケーブルで実現へ

  大林組宇宙エレベーター要素技術実証研究開発チーム幹事 石川洋二氏

宇宙エレベーターは「まっすぐ上に伸びるケーブルに沿って『クライマー』が昇り降りする、未来の、宇宙への交通手段」だ。既存手段の100分の1のコストで宇宙に行けるようになる。
 
我々が設計した宇宙エレベーターはケーブル長約9万6000キロメートル。静止軌道(高度3万6000キロメートル)の3倍弱、月までの約4分の1。ケーブルは地球につなぎとめられており、遠心力でまっすぐに伸びる。
 
このケーブルをCNTで製作する。要求条件は引っ張り強度150ギガパスカル。ケーブルに働く張力は静止軌道で一番強くなる。ケーブルは応力が一定になるよう、厚さが一定で、幅が変わるテープ状。寸法は幅が最大48ミリメートル、厚さは1・38ミリメートル。
 
宇宙エレベーターにかかる重力は上がるにつれ減っていく。約3分の1、火星と同じ重力のところに火星重力センター、約6分の1の場所には月重力センターを造る。さらにその先に低軌道衛星投入ゲートを設置する。
 
静止軌道では重力がゼロになるので比較的大きな設備が可能だ。静止軌道の外側では、物を離すと、地球の重力を振り切って、太陽を回る軌道に入る。高さに応じて火星や小惑星、木星に飛ばすことができる。
 
建設は、まず芯となるケーブルを宇宙から下ろし、それをクライマーが昇りながら太く補強する。補強は510回繰り返す。ケーブルが完成したら、資材を運んで施設を造る。
 
クライマーのイメージは質量約100トン、長さ144メートル。ローラーでケーブルを挟んで時速200キロメートルで自走する。静止軌道ステーションまで8日間で到着する。
 
技術的課題はまず長尺・高強度のケーブル素材の開発。候補はCNT。クライマーの駆動メカニズムや長距離の無線給電、さらにケーブルを守る安全技術などが欠かせない。
 
実施体制や資金調達方法など、技術以外の課題もある。ちなみに建設費用は概算で10兆円。現実味のある金額だと思う。

ナノ炭素材料応用製品技術ロードマップ紹介

透明導電膜、二次電池への応用進む

  新エネルギー・産業技術総合開発機構 電子・材料・ナノテクノロジー部主査
小森浩氏

ナノ炭素材料は産業界からの観点では軽くて、丈夫で、電気をよく通すという特徴から注目されている。このすぐれたポテンシャルの工業利用に向けた開発が活発化している。
 
昨年度実施した「ナノ炭素材料応用製品の最新動向と将来の市場予測」調査では、ナノ炭素材料の応用製品の現状と将来的な市場予測と、公共性の高い安全性評価技術に関する到達点と今後の課題についてロードマップにまとめた。応用製品を17項目に分類し、まず、重要性が高い透明導電膜、二次電池、安全性評価という3項目について調査した。
 
二次電池分野では、ナノ炭素材料が活材料粒子間の導電性経路の確保や、電極内部の抵抗を下げる効果を期待できる材料。二次電池の長寿命化、高容量化という観点で重要視されている状況だ。
 
理論的な電気容量ではスズやシリコンを用いることで数倍の容量を得られる。半面、充放電時の収縮・膨脹が大きいという課題を補うために、ナノ炭素材料の応用が進むだろうと思われる。
 
透明導電膜の分野では、一つはインジウム枯渇問題を抱えるITOに代表される既存膜の代替品として期待されている。もう一つの観点は、フレキシビリティーを有するナノ炭素材料を生かした応用ということだ。有機ELや有機太陽電池への応用はナノ炭素材料ならではの特徴を生かした用途として有望視されている。
 
ナノ炭素材料を用いる上で安全性評価は重要な分野だ。ナノ炭素に代表されるナノマテリアルは、人体内や環境中での挙動の理解がまだ完全ではない。
 
ナノ炭素材料の安全性評価については、現在、いろいろな安全性に関する試験、研究が行われている。予防的観点から取り扱う事業場でのガイドライン等が策定されている。
 
今後は、関係者の範囲を、最終的な製造者だけでなく、消費者まで含むように拡大することや、商品のライフサイクルへの対応などに取り組んでいくことが望まれる。