ロボット研究会, 最新活動報告

介護技術の見える化と技能教育-サービス科学からのアプローチ ~ロボット研究会~ 2014年2月14日

モノづくり日本会議は神戸RTビジネスプラットフォームと共催して2014年2月14日、神戸市長田区の神戸市立地域人材支援センターで、ロボット研究会「介護技術の見える化と技能教育・サービス科学からのアプローチ」を開いた。ロボット技術の導入によって介護サービスの現場に変革がもたらされていることについて、事例紹介を交えて議論した。サービス現場で熟練技能を伝承し教育していく上でも、技能の見える化が重要なカギを握る。最新のトピックスを盛り込んだ講演のほか、開発の進む介護機器のデモも会場で行われた。


サービスとの融合-ロボットで提案

ロボットビジネス推進協議会幹事 石黒周氏

だいぶ前には「ロボット」というとモノをつくるイメージがあった。次世代のロボットは「形」にとらわれず、トータルな価値のデザインとしてとらえなければならない。介護機器にセンサーがついているのもロボットだし、あるものをロボットに置き換えるケースもあるし、街そのものをロボット化して、という発想もある。ハードであることにとらわれず、サービスという無形なものに価値を見いだす。モノづくりとサービスの融合を、ロボットによって提案することを目指したい。

技能教育にサービス観点

経験価値の見える化を用いた共創的技能eラーニングサービスの研究と実証

東京大学大学院工学系研究科教授 淺間一氏

これまでロボット研究会では「災害対応」「移動知」といったテーマでも発表してきた。今回のテーマも含め、ロボティクスにサービスの観点が必要ということで共通すると考える。

「共創的技能eラーニングサービス」は科学技術振興機構(JST)のプログラムとして昨年秋から研究開発と実証を進めているもの。技能教育の重要性は、例えば製造業では優れた製品を作り出すことにつながり、介護などでは付加価値の高いサービスを提供できるようになる。ただ教育者と学習者が場所と時間を共有した教育が必要で、身体の動きを伴ったり、熟練した教育者の経験と勘に頼るため、コツや意図が伝わりづらく、非効率性・低生産性が指摘されてきた。知識教育が言葉で表現可能で、教育方法が形式知化しているのと対比できる。知識教育は、遠隔での1対多の教育サービスであるeラーニングサービスによっても可能だ。
 
今回の研究開発では「経験価値」に注目して「共創プラットフォーム」を構築する。具体的には技能教育において模倣が難しいとされる人間の動作を、教育者、学習者それぞれに対して、複数の魚眼カメラを使った俯瞰(ふかん)映像やモーションキャプチャーなどで3次元計測し、見える化する。どの筋肉をどう使っているかについても計測する。教育者と学習者の動作の違いを計測することで、技能を定量的に解析できると考える。
 
同時にインタビューなどによって暗黙知を形式知化したり、既存の技能教本から抽出するなどして「技能データベース」を構築する。さらに学習者側のアンケートやインタビューを分析したり、視線や脳の動きなどの生理計測も用いて満足感を推定する評価ツールを構築する。

一方で教える側の動作も定量化して、満足感との因果解析を行う。これらをネットを通じたeラーニングサービスによって実証する。

従来の製造業はモノの中に価値を見いだし、大量にモノをつくってきた。しかし、モノが提供する機能やサービス、そしてそれに対するユーザーの満足度に価値を見いだすように変化しつつある。価値の脱物質化といってもよい。
 
今回のプロジェクトは技能教育を通じてモノづくりとサービスの共同事業創出を目指しているもの。学習者の満足感の向上や教育者のスキル向上にもつなげていきたい。ひいては教育サービスの拡大につながればと考えている。

モデル事業 共通基盤づくり

神戸市における福祉用具適正利用への取り組み

兵庫県立総合リハビリテーション中央病院 リハビリ療法部長 中村春基氏

神戸市福祉用具適正ガイドライン作成委員会にも携わっており、その立場も含めてお話する。神戸市では先頃、骨粗しょう症による骨折のリハビリテーションに福祉用具が適切に使われているか実態調査を行った。それによると各介護保険施設で大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)骨折はベッド周辺や居室、歩行時、移乗時などの日常において発生しており、下肢の筋力の衰えや歩行バランス、認知症や状況判断ミスなどさまざまな要因がある。転倒予防に用いた福祉用具は手すり、歩行器などが多いが、効果があるとされるヒッププロテクターの使用は0・1%にとどまっている。
 
多様なリスクがあるのは確かだが、車いすに座りっぱなしのリハビリには問題がある。例えば毎食車いすに座ったまま食事をするならば年間4380回、立ち座りの機会を奪うことになる。動作手順の適正化など包括的なケアができるよう、リスク分析した上で医療機関が連携できる仕組みをつくらなければならないのだが、実際には医療機関間でも用具の名称や用語がバラバラであったりする。
 
15年ほど前、ドイツで車いすなど福祉用具の実態を視察した時には、日本は10年遅れていると感じた。例えばドイツでは立ち上がりたい時に補助するような製品があったが日本にはない。日本には工業力があるにもかかわらずユーザーサイドに立った製品づくりにつながっていないと感じた。神戸市では独自の車いすの開発にも取り組んでいるが、現状はやはり車いすだけでなく歩行車、つえなど福祉用具の量、種類とも不足している。またリフトはほとんど整備されていない。まだまだ「ノーリフト」の環境が整っているとは言えない。
 
そこでまず福祉用具を適正に使用できるよう、ガイドラインとなるハンドブックをまとめた。これを活用して共通の基盤づくりを進める。神戸市西区でのモデル事業として行うもので、3月にケアマネージャー、福祉用具専門相談員、看護師、セラピスト、医師などに対する用具の研修会を始める。それぞれ他の職種の特徴を知ってもらい、連携を促進する。これを神戸市独自の連携システムとして構築し、来年4月には神戸市全域での活用を目指す。「テクニカルエイドセンター」といったものを設け、情報を一元化して各職種や利用者、家族も含むネットワーク化を進める。高齢であったり障害があるなどしても自分らしい豊かな暮らしができるよう、支援するシステムを構築していく考えだ。

新しいケア日本から発信

ロボットテクノロジーが変える介護の技術~ケアの質へアプローチ~

日本ノーリフト協会理事長 保田淳子氏

日本ノーリフト協会は2009年に発足し、457人の会員、企業20社が加わっている。日本では介護職・看護職の腰痛予防対策としての「ノーリフティングポリシー」はまだまだ普及していないが、これはケア提供を受ける側の体を人力のみで持ち上げたり運んだりすることを禁じる考え方。豪州で1990年代後半から導入されたもので、日本は15年遅れているといってもよい。豪州ではロボットテクノロジーを活用することで、はっきりと腰痛による労災が減って予防対策となっただけでなく、人材不足解消やケアされる側にとっても移乗時の不快や危険の軽減につながるなど、効果を上げている。それに持ち上げなど以外の、本当に人の手が必要な場面に人手をさけるということも大きい。
 
日本では介護や看護の従事者の7割以上が腰痛を経験しているとの調査もある。その結果、離職だけでなく労災申請にもつながり社会的に大きな負担増となっている。厚生労働省も昨年、19年ぶりに「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、介護・看護作業において福祉用具を積極的に使用し、特に抱き上げ作業については原則的に人力による抱き上げは行わないよう明記している。それまでの指針では人力で取り扱う重量物を当該労働者の体重のおおむね40%以下、女性の場合はさらにその60%以下としていたものをさらに推し進めた格好だ。
 
やはりケアする側のプロとして、自分が患者になってはいけないという思いがある。またケア側が健康でないと、良いケア提供はできないはずだ。そのために当協会は介護・看護職場における腰痛予防対策方法の見直しと教育に力を入れている。日本では学校や職場の先輩に介護などの方法を教わるケースが多いが、これでは人によってやり方も異なりマニュアル化されていない。新しいアイデアや技術が、現場まで届いていない場合も多い。
 
そこで労働安全というかリスクマネジメントのシステム構築に取り組んでいる。ノーリフトについて指導できるコーディネーターの養成を行っているほか、今後は実技マニュアルの画像の作成や、病院や施設側が使える設計に関するガイドライン作成も行いたい。こうしたことを通じて福祉機器を正しく選んで使い、在宅でも十分な介護ができるようにしたい。豪州から学んだノーリフトの考え方だが、日本から発信する新しいケアのあり方につなげられればと考えている。