その他事業, 最新活動報告

AIロボットフォーラム 2015年12月4日

モノづくり日本会議と日刊工業新聞社は昨年12月4日、東京ビッグサイト東ホールのメインステージを会場に、2015国際ロボット展の併催事業「AIロボットフォーラム」(協力=シンギュラリティを語る会)を開催した。人工知能(AI)はディープラーニングなどの新技術によって目覚ましい進展を見せている。ロボットと人間が共存する未来について、AI、シンギュラリティをテーマに、さまざまな視点から意見が交換された。
■パネリスト

  神戸大学名誉教授/日本天文学会元理事長・松田卓也氏
  東京大学大学院情報学環教授・佐倉統氏
  プリファードネットワークス社長・西川徹氏

■モデレーター

  東京大学大学院工学系研究科特任准教授・松尾豊氏

機械学習・ディープランニング進展

人の認識精度超え応用広がる/西川氏

松尾 AIは1956年以来、現在が第3次ブームと言われている。ビッグデータを活用した機械学習やディープラーニングの技術が大きく進展し、人間の精度を超えた画像認識が可能になっている。
西川 我々は10年ほど機械学習の実用化を目指してきた。以前は精度的に不十分で、人手でチューニングする必要があった。ディープラーニングによって、人の認識精度を超えるまでになり、また特徴抽出の自動化が可能になった。応用は認識、予測から、プランニングにまで広がってきている。
松尾 佐倉先生は動物の進化に造詣が深いが、最近のAIにどんな印象をお持ちか。
佐倉 第3の波というが、今まで理論的に言われながらも実現できなかったことが可能になっただけか。それともパラダイムが変化し、本質的に違うブレークスルーなのか。期待や警戒だけが過度に膨らまないよう、慎重にありたい。
西川 ディープラーニングはまだ理論的解明が必要な段階。一方ニューラルネットワークはIoTとAIの融合で大きなブレークスルーを起こすだろう。多くの機械が協調することで、新しい応用が可能になる。
松尾 今までコンピューターができなかった領域に踏み込む大きなブレークスルーなのではないか。松田先生からシンギュラリティ(技術的特異点)に関して伺いたい。
松田 シンギュラリティは2045年と言われていたが、10年後、25年に日本から起こそうと計画を立てている。それにはハードウエアとソフトウエアが必要だ。
PEZYチップの齊藤元章氏は、技術的には「京」の100倍の能力のスパコンが19年までに、1000億コア・100兆インターコネクトで容積0・6リットルの脳コンピューターが25年までに可能だという。人間の脳はニューロンが1000億、シナプスが100兆。脳コンピューターはクロック周波数が10億倍速い。6リットルで全人類の知能が収まるということだ。
問題はソフト。大脳のようなアルゴリズムを作れれば、シンギュラリティを起こせる。
松尾 ハードはソフトが決まれば、それに最適化させるというアプローチもある。
西川 ソフトは結構解決できてしまうと思う。むしろハードのアーキテクチャー。GPUではインターコネクトの細さなどに限界が見え始めている。
松田 先の齊藤氏は、例えば今のコア1000・インターコネクト1ではなく、コア1・インターコネクト1000だという。磁界結合、極薄化、フュージョンボンディングの技術でものすごい密度が可能になる。
松尾 計算のためのハードだけでなく、ディープラーニングと組み合わせるロボット的なハードも進化するのではないか。
西川 センサーもアクチュエーターも、今は人がプログラムを書く。機械学習ベースになるとそれらの姿も変わるだろう。製造業は制御できるので機械学習が最もイノベーションを起こせる分野だ。

意識のないAI、脅威ではない/松田氏

松尾 国際ロボット展での展示について紹介いただきたい。
西川 何も教えない状態から徐々に学習してワークをうまくつかめるようになるロボットをファナックと共同出展した。8時間の学習で9割の取得率を達成できる。
松尾 この技術のインパクトは大きい。取得率の一段の向上は可能か。
西川 手法を検討すれば可能だ。開発3カ月でここまでできたのは、ファナックの意思決定が早いことも重要な要素だったと思う。
佐倉 生物の進化は非常に長い時間をかけた学習の過程でもある。種としての学習と同時に、個体も学習する。AIロボットは今の方向性で言語や高次認知を獲得するまで進化する可能性があるだろうか。
松尾 子供の発達過程と同様に認識、運動、言語と進むだろう。硬い・軟らかいという概念と言葉を結びつけられるようになれば、本当の意味での言語理解が可能になる。
松田 スティーブン・ホーキング、ビル・ゲイツら有名人が発言したことでAI脅威論が話題だが、彼らは専門家ではない。AIが悪意で人間をコントロールするというハリウッド的世界観にすぎない。専門家は意識を持たせるのはまだ先なので脅威に感じていない。ただし「ロボット兵器」の脅威はある。人間の悪用が怖いのだ。
松尾 AIは目的を持って初めて役に立つ。目的を設定するのは人間だ。
佐倉 自分に足りない部分を補ってきたのが人間の技術で、AIもこの延長線上にある。一方、フランケンシュタイン・コンプレックスというが、先端技術が制御不能になり人間に危害を加えることへの恐れも根強い。AI脅威論もこれだ。恐怖が先行すると研究開発が滞る。実用化が先行すると強い反発がある。バランスが必要だ。
松尾 最近「AIが職を奪う」的テーマが話題になっていたが、技術・使い方の正しい理解が大切だ。
佐倉 SFはある種の社会思考実験。SF作家やアニメ制作者とブレイン・マシン・インターフェースの研究者を招き、社会と技術の具体的イメージを検討しようと考えたが、まだ実現していない。

ロボット安全性・自動運転…今後、社会はどう変わる

新技術導入、社会の反応が大事/佐倉氏
ロボ・AI技術で日本復活期待/松尾氏

AIロボットフォーラムではさまざまな視点から意見が交わされた

松尾 今後、社会がどのように変わっていくかをお聞きしたい。
西川 ロボット分野ではティーチングの自動化など。システム全体の自動化と最適化が社会全体で進んでいくだろう。
もう一つは究極の安全性。ファナックのブースでディープラーニングを使い、特徴を自動抽出し、故障のタイミングをより正確に予測する異常検知を紹介した。これを発展させれば、より正確に予測し、行動を抑制することなどができる。
佐倉 新しい技術を社会がどう受け入れるか。新しい技術導入の成功例、失敗例が参考になる。遺伝子組み換え食品は欧州で強く反発され、定着しなかった。英首相の科学顧問は「安全性の問題ではなく、価値の問題。消費者は遺伝子組み換えしてまで生産性を高めたような食べ物は欲しくない」と総括した。AIも多様な価値観の人たちとコミュニケーションを重ね、情報を共有して積み上げていくしかないだろう。
松田 人間は知らないものに対して恐怖する。合理的な判断と情緒的な判断があり、人間は感情で動く。世間では機械が長じることを考えて脅威論を唱えるが、人間の知能増強だと考えればよい。
自動運転のほうが人間の運転より圧倒的に安全だが、事故でけがをした人への責任は誰がとるのか。運転手は運転していない。ではコンピューターか。コンピューターを罰しても解決しない。
松尾 奪われる職業というが、最後までなくならない仕事は謝ることだろう。精巧なロボットが涙を流して謝っても、怒りに油を注ぐだけ。人間社会は人間が形成している。
佐倉 謝ることを機械に置き換えられないのが人間社会の本質的な部分だ。松尾 最後に全体の議論を通じて一言ずついただきたい。
松田 少子高齢化で圧倒的に労働力が減ってくる。圧倒的に生産性を上げるためにはロボット化、AI化しかないと思っている。
佐倉 フランケンシュタインの怪物があそこまで博士に恨みを持ったのは、人間社会が受け入れなかったからでもある。社会の反応はすごく大事なことだ。
西川 ロボット技術の進化は"マスト"な事項。その時、日本がイノベーションの中心になることは間違いないと確信している。
松尾 ロボットとAIがキーテクノロジーとなって、日本復活につながってほしいと思う。ありがとうございました。