ネイチャー・テクノロジー研究会, 最新活動報告

ネイチャー・テクノロジー研究会シンポジウム 2015年12月9日

ネイチャー・テクノロジーによる接続可能な地方創生
地域ならではの産業を考える

 モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)のネイチャー・テクノロジー研究会は昨年12月9日、東京・丸の内の東京国際フォーラムでシンポジウム「ネイチャー・テクノロジーによる持続可能な地方創生―地域ならではの産業を考える」を開いた。地方創生では、自律的・持続的な地域の構築が求められており、そこでの自治体・企業の役割があらためて問われている。地域らしい産業創出・”しごと“の創生から見たライフスタイルの変革にスポットを当て、自治体・大学・企業の取り組みや課題を共有した。


基調講演
「孫が大人になったときにも笑顔あふれる地方を創りたい」

  東北大学名誉教授 地球村研究室代表・石田秀輝氏

ローカルを基盤に環境と生命の成長 両立

 2045年の世界が人工知能(AI)、自動運転、再生医療、仮想通貨などのキーワードで語られるが、本当に社会は求めているのだろうか。論理的に優れた思考でも前提条件が間違っていれば解は出ない。足場を変えて、バックキャストで見ることが大切だ。
 未来を考える上で外せない二つの大前提が地球環境問題と人口減少・少子高齢化。将来全国の半数近い自治体が人口減少で消滅する可能性が指摘されている。地方で小さな循環を作ることこそ、持続が可能になる。
 地球環境問題の発端は人間活動の肥大化。これを、心豊かに暮らすことを担保しながら停止・縮小しなければならない。持続可能な社会とは「環境と経済成長の両立」と言われてきたが、もう賞味期限切れだ。
 これからはローカルを基盤に「環境と生命の成長の両立」を考えるべきだ。生命の成長とは多世代にわたる生命の循環。厳しい環境制約の中で心豊かに生き、その結果として経済成長にも貢献していくという姿だ。
 私が今住んでいる鹿児島県の沖永良部島も二つの問題に直面している。島の域際収支をしっかりと量ることと、島の文化である生活原理をもとに未来のかたちへと創り直すことが必要だ。
 「90歳ヒアリング手法」で島の老人29人から話を聞き、分析した結果、「食」「自然」「集い」「楽しみ・遊び・学び」「仕事」という五つの価値観が浮かび上がった。この価値観でバックキャストし、孫が大人になった時の心豊かなライフスタイルを描く。20年後の姿を描いたら、それを支える柱として、3年後の姿を具体化する政策やビジネスを展開する。
 島の若手たちと一緒に考え、行政に18の施策提案を行った。いずれもちょっとした不自由さや不便さを、スキルや知識、コミュニティーの力で越えよう、「間(ま)」を埋めようというものだ。すでに誰かがやり始めたものもある。この中からビジネスも生まれてくる。
 環境制約の上に心豊かな暮らしの形を作る活動は既に多くの地域で始まっている。兵庫県豊岡市のコウノトリを起点とした取り組み、宮城県南三陸町のバイオガスシステム、長野県下條村のまちづくりなど、利便性とは異なる価値が具体化し始めたのだ。

招待講演「豊岡の挑戦―小さな世界都市の実現に向けて」

  豊岡市環境経済部エコバレー推進課課長補佐・池内章彦氏

5戦略で「環境・経済の共鳴」へ

 兵庫県北東部に位置する豊岡市は人口8万6000人弱で、森林が市域の8割を占めている。当市の地方創生は人口減少対策だ。
 人口減少の要因は若者の転出超過と、出生数の減少。そこで若者の定住促進と未婚率抑制の2本の柱で、人口減少の抑制を図ることとしている。
 人口減少の量的緩和策とともに、地域社会・経済・文化のあり方の質的転換が重要だ。「豊岡には大都市とは別の価値観に基づく豊かな暮らしとやりがいのある仕事がある」ということを自覚して暮らし、働く若者が増えることが、新たな地域活力の創造につながると考える。
 豊岡が目指す姿は、人口規模は小さくても世界の人から尊敬され、尊重される「小さな世界都市」。この実現に向け(1)これまで受け継いできた大切なものを守り、引き継ぐ(2)芸術文化を創造し発信する(3)環境都市「豊岡エコバレー」の推進(4)小さな世界都市市民を育てる(5)積極的な情報発信戦略―の五つの戦略を展開している。
 豊岡エコバレーは「コウノトリ育む農法」をはじめとする、利益を追求する事業によって環境が改善される環境経済型事業に取り組むことによって、市内のいたるところで環境と経済の共鳴が起きているまちにしようというもの。さらに、豊岡エコバレーの具体的なイメージを示すため、石田秀輝先生の指導の下、豊岡ライフスタイルデザインプロジェクトに取り組んでいる。
 心豊かな暮らし方を”小さな世界都市“豊岡で実現していきたい。

「未来の暮らし方を育む泉の創造」

  東北大学大学院 環境科学研究科准教授・古川柳蔵氏

4モデル地区で実装のステップ検討

 「未来の暮らし方を育む泉の創造」というタイトルは科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST―RISTEX)に採択されたプロジェクトの名称で、期間は2015年10月―18年9月の3カ年。ライフスタイル(LS)を変えることによる環境負荷低減と心豊かな暮らし方の実現が目標だ。
 戦前の暮らし方は狭い範囲で閉じていた。移動技術、情報技術、生活技術が未発達でさまざまな制約がある中で、心豊かな暮らし方を考えていた。その後、技術が発達し、環境負荷の増大と引き換えに利便性は向上したが、心の豊かさは失われていった。
 将来は厳しい地球環境制約が待ち受けている。その制約下で心豊かになるための方法を考える。これがLSの見直しだ。
 ネイチャー・テクノロジー(NT)研究会の議論の中から出てきた考えに、「利便性の坂」がある。制約を取り除き、利便性の坂をどんどん下る暮らし方は、得られる価値もあるが、失われる価値もある。何かを契機に暮らし方を変えようとするならば、坂を少し上がって制約という歯止めを設けて滞留させる。価値観が変わってきたら、さらに坂を上がっていく。
 未来のLSをデザインしても、利便性の坂を下っている人たちは一足飛びに坂の上へとは進めないので、ハードルを下げたLSを設定する。これを実現するために必要な技術を抽出して自然から学んでリデザインする。これを繰り返して階段状に上がっていく。
 持続可能な社会とは「地域の自然環境に合わせた心豊かな暮らし方が湧き出る泉があり、次代に何を残すべきか明確な社会」と考えている。プロジェクトではこれを具体的な自治体で実証する。
 ここで「LSは人に押し付けるものではない」「心豊かなLSは自然環境と制約に依存する」という大前提がある。LSは地域の人が自ら考え、地域が異なればLSも異なったものになる。
 各自治体で、環境制約の下、バックキャストによるLSを描いてもらう。たくさん描くことで地域らしさが見えてくる。バックキャストと90歳ヒアリングという手法導入に2年ぐらい、自治体が自らLSを描けるように次の2年。この基盤が構築されれば、少しのサポートで自ら目指すべき方向に進んでいく。
 プロジェクトではモデル地区として、豊岡市、岩手県北上市、沖永良部島、伊勢志摩地域(具体的な自治体選定は検討中)の4地域。手法はできているので、実装のステップを検討する。地域らしさとは何かを追求し、特に北上では伝統技術を使った新しい未来のLSを描きたいと思う。
 東北大学と自治体とで共同研究の体制を組み、連動してLSをデザインする。代表的なもの、社会受容性の高いものを選び、モデル地区で実装を検討する。
 それぞれ地元の人に協力してもらい、また、NT研幹事会メンバーにも手法研究やファシリテートでサポートしてもらい、プロジェクトを成功させたい。

パネルディスカッション/“産官学金労言”連携による地方創生の課題

■パネリスト

  日本政策投資銀行企業金融第1部担当部長、技術事業化支援センター長・島裕氏
  日本リファイン未来創造研究室 豊岡市環境経済部エコバレー推進課環境経済係・松野祥太氏
  豊岡市環境経済部エコバレー推進課課長補佐・池内章彦氏
  東北大学大学院環境科学研究科准教授・古川柳蔵氏
  日刊工業新聞社モノづくり日本会議実行委員会委員長・拝原泰介

■モデレーター

  大日本印刷ソーシャルイノベーション研究所・木村晴信氏

木村 3氏の講演では地方創生について、目指すべき姿の描き方や具体化に向けた手法について、また、実現に向けて自治体がどのように取り組んでいるのかが紹介された。具現化するための重要なポイントの一つが産官学金労言の連携にあるようだ。この点について、もう少し深めていこうと思う。
 今の社会は価値観が多様化し、企業にはモノではなく、コトの提供が求められている。ユーザーや社会と一緒に共通価値の創造(CSV)に取り組むことが欠かせない。
金融はこれまで、事業化が見えてから相談を受けてきたが、もっと前工程にあるアイデアを創り、モデルを考える段階でサポートする必要性が高まっている。
そこで社会的課題をビジネスで解決するコンセプトを考える場として、大手町イノベーションハブ(iHub)を立ち上げた。ビジネスは競争だが、ファクトファインディングは共創できる。iHubで議論し、価値を創造する取り組みだ。
地域と企業の共創では、地域は困りごとの解決を、企業はより上位概念の課題設定を望む。いかに相乗りできる共同目標を設定できるかが重要だ。共感できる目標を作り、小さく試して、大きく育てようという流れだ。
連携は目標設定が難しい。プロジェクトを動かすには、お互いの立場の違いを尊重する姿勢が欠かせない。
木村 豊岡での取り組みは。
池内 豊岡エコバレーをはじめ、企業、金融機関、商工団体などとの連携なしではやれない政策が増えている。当課には松野さん、大交流課には楽天、日立製作所、JTBの人に来てもらっている。
木村 松野さんは日本リファインから豊岡市に出向している。
松野 現在、豊岡ライフスタイルデザインプロジェクトを担当している。「地元の食材で集う暮らし」のライフスタイルの実装を進めている。徐々にステップアップするべく、地元食材の良さを理解してもらう取り組みを展開している。
地元の学校給食にジャガイモと玉ネギを供給しているが、サイズ規定に課題が残る。また、通年供給に向け保冷庫が必要になる。通常の保冷庫は電気代がかかるので、コンテナを改造した雪室を建設中だ。コストは大幅に圧縮できる。このプランは関係者が皆WIN―WINになる。目下、個人が雪室を共同利用して集いが生まれるライフスタイルを検討している。
地域の中小企業の人には、自分の思いを書く力、支援したくなるような企画を作る力を求めたい。必要なスキルを身に着けることは重要だ。行政はアイデアを具現化するためにサポートしていく。
木村 地域と企業の連携でどのようなことを感じるか。
古川 地域の人たちと地域外の企業との共感はありえないと感じているが、ライフスタイルの視点で議論を重ねると、共感はなくても同じ方向は向ける。
地元の人とは異なる価値観を持つ企業が同じ方向を向くことで、外からの視点でないと気が付かないアイデアや地域特有の価値が見えてくる。
産官学金労言の連携は価値観の違いを考慮した方法の設計が不可欠だ。連携が深まるほど、この部分への注意が大事になってくる。
木村 つまり、立場の違いの尊重ということだろう。
拝原 地方創生での産学官連携に言を入れる意味は何か。検討段階で大所高所の話をするためならば意味はない。言論・報道機関というよりも、メディア、仲を取り持つ媒介者としての役割が求められていると思う。
金融も前工程に出ていくという話があったが、我々も同じだ。前段から関与することが大切だ。モノづくり日本会議や、各地にある産業人クラブの事務局として、皆さんと一緒に活動することで、産業・技術の振興につなげていく。産の立場から学、官に結びつける媒介として、地方創生に関わることが重要だと考えている。
木村 前工程に出ていくというのは、産業界も同じ思いだ。
松野 価値観は日本人として共通する部分と、地方や立場で異なる部分があるのは当然だ。ただ、皆が力を合わせなければ成し遂げられないので、大学など中立的な立場でコーディネートする人が必要になる。
古川 地域には既存の人間関係が出来上がっているので、中立、あるいは外部の立場で入らないと新しいことは進んでいかない。
木村 政府系金融の性格も中立性が高い。
 ビジネスとして起こすときに「自分がやる」という人がいないと物事が動かない。そういう人を中立的な立場で応援するのが役割だと思っている。
木村 企業と地域の共創は、経済的つながりがないと継続的な関係構築は難しい。これはすぐにはできない。
池内 豊岡市の政策目標は人口減を少しでも緩和しようというもの。豊岡にしかない仕事、豊岡でもできる仕事を増やすことが重要だ。豊岡を選んで来てくれる企業、一緒に取り組んでくれる企業を期待している。
木村 地方創生の産官学金労言連携の成否は、連携の第一歩である共通目標づくりにかかっているようだ。価値観は共有できなくても、共通の目標があれば、共創は必ずやうまくいくだろう。