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第4回ネイチャー・インダストリー・アワード~若手研究者からの発信 2015年12月4日

「自然の叡智」研究を奨励 OSTEC賞に千葉大院 桑折氏ら

生駒会長から表彰を受ける千葉大学大学院工学研究科の桑折准教授

 大阪科学技術センター(OSTEC)は2015年12月4日、日刊工業新聞社(モノづくり日本会議)と共催で、「自然の叡智(えいち)」に関する研究に取り組む若手研究者を支援する「第4回ネイチャー・インダストリー・アワード(NIA)~若手研究者からの発信~」を開いた。会場のOSTEC(大阪市西区)には約200人が訪れ、応募のあった42件の技術シーズのプレゼンテーションやポスター発表、優秀案件の表彰式や講演会が開かれた。


主催者あいさつ

大阪科学技術センター会長・生駒昌夫氏

 産業界では「自然の叡智」をいかにモノづくりに反映するかが大きなテーマになっている。例えば新幹線の防音装置や水をはじく傘、痛くない注射針など、自然の叡智を生かした技術がすでに実用化されている。全国の大学や研究機関、高等専門学校から合計で42件の技術シーズの応募があった。我々が表彰することで、若い研究者の方々の励みになればと思う。研究技術と企業がマッチングすることで、新たな製品開発につながることを目標に掲げ、NIAを開いてきた。

 第1回から今回までを合わせた技術シーズの応募は、合計で約160件にも上る。昨年までの120件の中には、産業界から製品開発につながるとして声がかかっているものもある。今回の42件にも産業界からの注目が集まり製品化につながれば、主催者として喜ばしい。

日刊工業新聞社取締役大阪支社長・曽根洋一

 都市化を伴う人口の爆発的な増加が、エネルギーの大量消費や環境負荷の増大などの課題解決を困難にしている。世界各地あるいは各研究領域で、持続可能な社会のあり方について検討していかなければならない。持続可能な社会を作るには、持続可能な技術体系を構築する必要がある。ネイチャーテクノロジーは大切な切り口だ。
 日本人は西洋とは異なる自然観を持つ。自然界の外に人間を置き自然をコントロールしようとする西洋文化に対し、日本人は自然の中に身を置き共生するという価値観を持つ。日本の特徴を生かした独特の手法で、世界の技術の進歩に貢献できるのではないか。日本で技術の芽が出ても産業化の段階で後れをとることも少なくない。あらゆる技術と産業の分野が重なり合い、製品が生まれていくためのプラットフォームの構築が必要だ。

表彰式/新規・独創性ある42件審査


曽根支社長から表彰を受ける千歳科学技術大学の平井専大講師

 第4回ネイチャー・インダストリー・アワードでは応募、発表された「自然の叡智」に関する42件の技術シーズを審査し、特に優れた案件を表彰した。
新規性や独創性に優れた研究に贈られる「OSTEC賞」には千葉大学大学院の桑折道済准教授らの研究グループ、実用化の可能性が高い研究に対する「技術開発委員会賞」には産業技術総合研究所(産総研)の穂積篤研究グループ長らの研究グループ、応用分野が広くモノづくりに寄与する研究を対象とする「日刊工業新聞社賞」には千歳科学技術大学の平井悠司専任講師らの研究グループを選出した。他にも5件の発表に特別賞が贈られた。

ネイチャー・インダストリー研究の優秀な8つの発表を表彰

 いずれの案件も、動植物が有する構造や自然界の機構など「自然の叡智」を産業技術に応用することを目指したもの。環境技術、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、エネルギー、ロボット・構造デザインの5分類に分けられ、全国の大学や高等専門学校、研究機関から応募があった。


講演: 深海 人類最後のフロンティア

  海洋研究開発機構 海洋生命理工学研究センターセンター長・出口茂氏

宇宙と深海は人類に残された最後のフロンティアとされる。宇宙については、まず人類は月を目指した。1969年7月、アポロ11号の乗員が初めて月の地面を踏んで以来、アポロ計画は計7回実施され、延べ12人が月に着陸した。地球と月の距離は38万キロメートル。これに対して最も深いマリアナ海溝チャレンジャー海淵(かいえん)ですら水深1万1000メートルに過ぎない。それなのに、チャレンジャー海淵に到達した人間は3人しかいない。
 それはなぜかと言うと水圧の問題が大きい。海溝の最深部では1100気圧にも達する。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する有人潜水調査船「しんかい6500」は、厚さ7センチメートルのチタン合金で覆われており、内部は1気圧に保たれている。有人潜水調査船のコアである耐圧殻の設計・製造が難しく、いまだ人類を安全に最深部まで送り届けることは困難である。
 海洋学では200メートル以深を深海と呼ぶ。水圧が高く低温、そして光が届かないという共通点があるが、温度については例外がある。高温・高圧の水が噴出する熱水噴出口だ。地上の温泉でも同じだが熱源は地下のマグマだまり。深海底の方がマグマだまりに近く、温度は地上の温泉よりもかなり高い。100度Cを超えても高圧なので沸騰せずに液体のまま存在している。
 水は常圧だと100度Cで沸騰するが、100気圧だと320度Cまで沸騰しない。温度と圧力を上げていくと374度C、218気圧で臨界点を迎える。それ以上は気体と液体の区別がつかない超臨界状態になる。大西洋中央海嶺の熱水噴出口で、天然の超臨界状態の水が噴出している。
 JAMSTECでは熱水噴出口など極限的な物理化学環境にヒントを得て、新たな化学プロセスを構築しようとしている。水と油のような分離した二つの液体を混ぜる乳化技術はさまざまな産業分野に応用されている。また最近では粒子を微細化したナノエマルションが注目されている。通常は径の大きい油滴に外部からエネルギーを加えて微細化する「トップダウン方式」が用いられている。物理的にはこのプロセスを繰り返せば油滴は小さくなるはずだが、実際には150ナノメートルまでしか小さくならない。逆に分子を積み上げていく「ボトムアップ方式」は合理的なようだがジレンマがある。油が水に溶解した溶液が必要だからだ。
 問題解決のヒントが熱水噴出口にある。水の比誘電率は常温常圧の場合80前後。温度と圧力を上げていけばどんどん下がり、超臨界状態だと2から3までになる。
 一般に比誘電率が高いものと低いものは混ざらないが、超臨界状態ではさまざまな油が水と自由に混ざるようになる。この理屈を応用して製作した装置は、まず水を440度Cまで加熱し、そこに油滴を投入する。混合物は混合管を通る間に混ざる。そこに乳化剤を含んだ冷水と冷却コイルで瞬時に冷却する。一気に温度を下げるのがポイントで、直径60ナノメートルほどの微細な粒子が得られる。従来の乳化技術は径の大きい油滴を効率的に小さくする技術だったが、この技術で正反対の方式でより小さい油滴が得られた。さらにこの技術を応用すれば針状や板状の異方性ナノ粒子や蛍光ナノ粒子など新素材の開発も可能になる。

 かのアントニ・ガウディが「人がつくったものは自然という偉大な本の中に書かれている」と言ったように、自然は新技術開発の宝庫だ。しかし深海にはどんな宝があるかまだよく分かっていない。さらに地上とは全くかけ離れた深海の極限環境には、乳化のような成熟した技術分野さえ革新を起こすことができると確信している。

総評 「広く技術シーズを評価」

  大阪科学技術センター・技術開発委員会委員長代理・横川正道氏

 応募があった研究シーズは、自然界の深遠な仕組みや機能から学び、うまく産業技術に生かし社会で役立てようとするもので、大変素晴らしく感じた。
 従来の学術範囲よりも広く技術シーズを評価できたのではないかと思っている。独創的でおもしろい発表がたくさんあった。

 まだ卵の段階のものもあるが、ネイチャー・インダストリー・アワード(NIA)をきっかけに産業界との新たなコラボレーションが生まれ、実用化につながることを期待している。若い感性で自然の中に隠れる新しい技術を発掘してもらい、産業技術につなげ、世界に発信できるよう若手研究者の活動を応援していきたい。

受賞者の研究概要

【OSTEC賞】 メラニン顆粒を模倣した吸収のあるコロイド粒子を用いる多彩な構造発色の実現

  千葉大学大学院工学研究科准教授・桑折道済氏

 鳥や昆虫などにみられる微細なナノ構造(ナノは10億分の1)に起因する色「構造色」は、毒性を示す色素や顔料が不要で色あせず、次世代のインクとして期待されている。

 構造色は、微細なナノ構造と光の相互作用で発現する。自然界での構造色発現機構から着想し、新たなコロイド粒子を作製した。固体状態で高発色・高反射率(光利用効率が高い)ながら、広角で同一な色となる「単色構造色」の発現に成功した。

【技術開発委員会賞】 魚の鱗に倣った超撥油性表面の創製 ~水/油連続分離システムの開発~

  産業技術総合研究所構造材料研究部門材料表界面グループ研究グループ長・穂積篤氏

 魚体表の水中での超撥油(はつゆ)性、ハスの葉表面の超親油性に倣い、親水性のカルボキシ基終端、疎水性のステアリル基終端ポリマーブラシを基材表面に固定化することで、水中での水膜形成による超撥油性、油中での油膜形成による超撥水性をそれぞれ実現した。

 さらに、これらの優れた表面機能を金属メッシュ表面に付与し、大量の水/油の混合液を高速、高純度で連続的に分離するシステムの開発に成功した。

【日刊工業新聞社賞】 自己組織化を利用した無反射・超撥水/超親水シリコン微細構造の作製

  千歳科学技術大学理工学部応用化学生物学科専任講師・平井悠司氏

 自己組織化を利用し、簡便、省エネルギーで無反射性と超撥水性、超親水性およびそのパターニングが可能なシリコン微細突起構造の開発に成功した。この機能は、蛾(が)の目の無反射性やハスの葉の超撥水性、ゴミムシダマシの水滴捕集などを模倣した機能を持っている。また、ぬれ性をパターン化した表面は重力に逆らって水を輸送することもできる。本研究で使用した加工方法は金属表面へも適用でき、さまざまな分野への応用が期待される。

【特別賞】 天然ヒアルロン酸と合成高分子を融合した体にやさしい製剤

  神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻准教授・大谷亨氏

 ヒアルロン酸は鶏冠から抽出、もしくは微生物によるバイオ製法により生産される生体適合性材料であり、自然から恩恵を受けているバイオマテリアルだ。ヒアルロン酸の生体適合性・生分解性に加えて、水溶性高分子を組み入れた新規グラフとポリマーを設計することで、バイオ医薬品の安心かつ効果的な物送達システムを目指している。

【特別賞】 ラン藻を利用した水素生産の高効率化と持続性の向上―太陽光と水からの光合成的な水素生産に向けて―

  大阪市立大学複合先端研究機構特任准教授・増川一氏

 ラン藻は太陽光をエネルギー源、水を原料として光合成的に水素生産でき、将来、経済的で大規模な再生可能エネルギー源になる可能性がある。高濃度の窒素ガスが存在すると、水素生産性が大幅に低下する問題があった。水素生産を行う酵素を遺伝子工学的に改良し、窒素ガス下の水素生産性を3―4倍向上させ、3週間にわたり持続させることに成功した。この成果は、培養ガスのコスト削減につながる。

【特別賞】 生物ソナー・コウモリから学ぶ超音波センシング技術

  同志社大学生命医科学部准教授・飛龍志津子氏

 生物が有する高度な機能やアルゴリズムには、未来のテクノロジーにつながる要素技術が数多く秘められている。生物ソナーと呼ばれるコウモリの効率的な超音波センシングの仕組みや、その合理的な運用方法を明らかにし、次世代のセンサー技術やナビゲーションシステム技術に役立つシーズを提供したいと考えている。

 高等動物の意思や判断に学ぶ、新しいバイオミメティック研究分野の創出を目指している。

【特別賞】 浮体式垂直軸型風車および潮流タービンのコストを削減するための浮遊軸型支持装置

  大阪大学大学院工学研究科特任教授・秋元博路氏

 地上に建設された一般的な風車(水平軸型風車)は、海上に設置する浮体式として使用するには向いていない。

 一方で、垂直軸型風車は浮体式に有利とされる。洋上風車や潮流発電タービンを直立に保つことをやめ、柔軟に支持することで支持構造を削減し、高い経済性を実現する。

【特別賞】 蝶の構造と飛翔メカニズムを応用した小型はばたきロボット開発

  東京電機大学未来科学部ロボット・メカトロニクス学科助教・藤川太郎氏

 近年、小型飛行ロボットの開発が盛んであるが、より小さな昆虫サイズのロボットの研究も進められている。しかし、わずか数センチメートル・数グラムサイズの機体に複数のアクチュエーターやセンサーを搭載することは困難であり、いまだ実用化には至っていない。本研究では、蝶(ちょう)の羽ばたきに着目し、それをモデルとしたロボットを開発している。蝶の構造と飛翔(ひしょう)メカニズムを基にすることで、ロボットは姿勢を制御して飛び立つことが可能となった。

 他の発表者の要旨は大阪科学技術センターのネイチャー・インダストリー・アワード専用ホームページに掲載されている。