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先進パワーエレクトロニクスシンポジウム 注目される次世代技術の現状と今後の課題 2016年3月11日

 モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は2月5日、大阪市西区の大阪科学技術センターで「先進パワーエレクトロニクスシンポジウム」を開いた。パワーエレクトロニクスは電気・電子装置、産業用機器、自動車、太陽光発電システムなど幅広い領域での利用が期待されており、中でも炭化ケイ素(SiC)半導体は省エネ素子として研究開発が活発に行われている。日本が世界をリードする技術として注目を集めており、参加者は熱心に聞き入った。


はじめに/地域産業活性化・底上げ期待

産業技術総合研究所関西センター所長代理・松原一郎氏

 わが国には、事業化に至っていない優れた技術シーズが数多くあり、産総研では研究成果を産業界の事業化にしっかりつなげていく「橋渡し」機能の強化を目標とした第4期中長期計画をスタートさせている。パワエレ関連では、つくばセンターに先進パワーエレクトロニクス研究センターを設けているほか、関西センターでも次世代のパワーエネルギー素子として注目を集めているダイヤモンドの研究を進めている。
 京都ではスーパークラスタプログラムが実施されているほか、関西地域にはデバイスメーカーなども多く、パワエレの産業集積がある。国際競争力を高めることはもちろんのこと、この技術が地域の産業活性化や底上げにつながることを期待している。

あいさつ/省エネ 抜本的取り組みを

日刊工業新聞社取締役西日本担当・曽根洋一

 先般の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で先進国だけでなく、すべての国が温室効果ガスの排出削減に取り組むことになった。その一方で都市化を伴った人口増加の問題があり、環境と人口問題の両面から考えた時、どうしても省エネ技術が必要になってくる。

 省エネは見方を変えれば”創エネ“で、ハードとソフトの両面から抜本的に取り組む必要がある。日本が得意とする「社会のネット化」についても、そこに産業機器などが介在し、将来的には消費電力の3分の1がネットに使われるようになるといった予想もある。そういったことを考えると、いま一度立ち止まって省エネについて考える必要があり、このシンポジウムの果たす役割は大きい。

基調講演/「実用化が進むパワー半導体SiCの最新動向」

国際競争力強い新産業創出 期待

  京都大学名誉教授・松波弘之氏

 これまでパワーデバイスは、Siを材料にして作られてきたが、SiCは現用のSiに比べて、約3倍の禁制帯幅を持つなどの特性があり、電力の損失を10分の1程度に抑えられることができるほか、耐圧性にも優れている。また熱にも強く、大がかりな冷却装置も必要ないことから、機器の小型化にも貢献できる。
 最近ではIoT(モノのインターネット)、インダストリー4・0が注目を集めているが、ネットにおける電力使用量の増大は無視できない。そういった中でSiCや窒化ガリウム(GaN)といったワイドギャップ半導体は省エネに有効である。
 SiCはさまざまな場面で優位性が唱えられたが、高品質の結晶を成長させる技術が確立するまではパワー半導体としての注目度は低かった。我々は「ステップ制御エピタキシー」という高品質のSiCエピタキシャル結晶を成長させる方法を1987年に見いだした。これをきっかけにSiCの優れた特性を産業界で生かせると思ったが、経済成長の時期でSiCには関心が薄かった。材料開発だけでは相手にされないと考え、これまでの研究成果をもとに耐圧1キロボルトを超えるショットキーバリアダイオード(SBD)を提示し、電界効果トランジスタ(MOSFET)に対する見通しを立てた。企業の参画を促すために、いくつかの国家プロジェクトにつなげていった。
 国家プロジェクトの支援を基に、自動車や鉄道などで電力損失低減の実績から実用化が進んでいる。基礎研究レベルであるが、電力インフラに使える超高耐圧パワーデバイスは、グリーンイノベーションの実現に寄与できるほか、国際競争力の高い新産業の創出につながると考えている。
 最近は、科学技術振興機構による京都スーパークラスタプログラム事業において、SiCパワーデバイスを搭載した省エネシステムの製品化および社会実装を目指したプログラムの支援をしている。地元中小企業を中心にした産産学連携による取り組みだけでなく、長野県、福井県、滋賀県にあるサテライトクラスタとの連携も加速している。

 課題として高品質バルク成長と低価格化があるが、個人的にはSiCでしかできない応用の発掘、さらには使い方を考える若手の育成などに取り組む必要があると考えている。

講演/「パワーエレクトロニクス革新の意義―国内の現状と産総研の取り組み」

超高耐圧バイポーラデバイスの研究開発 加速

  産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター長・奥村元氏

 パワエレの守備範囲は広範にわたるが、では”マイクロエレクトロニクス“と”パワーエレクトロニクス“とどう違うのか。前者は主に「情報、信号」を扱うのに対して、後者は「エネルギー」を扱うという点で半導体デバイス構造も大きく変わってくる。パワエレの場合、デバイス性能として高耐圧、低オン抵抗、大電流動作などの性能が求められるわけだが、SiCやGaNといったワイドギャップ半導体の材料物性がそれらに対応できる。
 従来の半導体材料の構成元素は、周期律表の中で第3周期以降に位置するが、第2周期の炭素や窒素といった元素を含む物質にも半導体の性質を示すものが存在する。SiCやGaNなどがそれで、結晶の格子定数が小さくバンドギャップが大きいという特徴を持つ。ただ、原子間の結合が強いので、融点が高く合成するのが難しいというのが材料面からの課題であった。バルク成長も薄膜成長も難しい。
 近年、結晶成長法の進展で高品質な結晶が安定的に得られ、実用的な半導体デバイスが試作できるようになった。ワイドギャップ半導体パワーデバイスの技術進展の観点から眺めてみると、第1世代と定義できる耐圧1キロボルト級において、現在までにエアコンなどの民生品で実用化が進んでいる。第2世代と言われる5キロボルト級の領域においては産業機器や自動車、運輸インフラを適用先とした高耐圧高信頼性デバイス、第3世代である10キロボルト以上の領域においては電力系統インフラなどに使われる超高耐圧バイポーラデバイスの研究開発が加速している。
 産総研では、SiCウエハの低コスト化につながる新規結晶成長法として溶液成長法の開発を進めているほか、大口径結晶の高効率ウエハ化一貫プロセスを目指して、切断・研削・研磨および化学的機械平坦化(CMP)の各工程の効率向上と最適化で、従来の方法に比べ加工時間を大幅に短縮できるウエハ加工技術を開発した。高耐圧トレンチMOSFETや絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)といった新構造の高耐圧・超高耐圧パワーデバイスも開発している。

 今後は、高効率性や小型軽量化を通した利便性向上による普及促進の面と、”何にでも使いたい“という要望に対応して耐電圧や容量の増大という適用領域拡大に向けた取り組みが開発の方向性となる。これらの要求に応えるため、オープンイノベーション拠点として、最先端技術に基づく迅速な量産化レベル開発を可能とする開発環境の整備を今後進めていく予定である。

講演/「三菱電機の次世代パワーエレクトロニクスの開発戦略」

搭載デバイスの事業領域拡大

  三菱電機開発本部 役員技監・大森達夫氏

 三菱電機の事業は重電、産業メカトロニクス、情報通信、電子デバイス、家庭電器などで構成されており、制御、パワーエレクトロニクスなどを技術基盤とし、”強い事業をより強く“、”新たな強い事業の継続的創出“、”強い事業を核としたソリューション事業の強化“を成長戦略の基本としている。
 現在、SiCモジュール、IGBTモジュール、GaN高周波デバイスなどを手がける電子デバイス事業の売上高は2014年度実績ベースで約2384億円。売り上げ全体の5%程度となっている。
 材料の研究から始まってデバイスやモジュールの開発などを行っており、顧客からの要望を聞いてそれに対して問題解決策や新しい提案を行うスタイルで研究開発を進めている。自社単独での研究開発には限界もあると考えているので、東京工業大学などを中心に産学連携の取り組みも拍車をかけている。
 会社創立100周年にあたる2021年を目標年とする「環境ビジョン2021」において、低炭素社会を実現するために”省エネ“をキーワードに取り組んでおり、CO2を削減した製品づくり・システムづくりを展開している。パワーエレクトロニクスは、電圧・周波数などを変換する半導体・回路技術のことで省エネを実現する技術として注目を集めている。
 そうした中、15年6月に小田急電鉄向けのフルSiC適用インバーターで約40%の省エネを実現するなど実績が上がってきた。また世界的な省エネや環境保護の観点からインバーター制御機器の需要拡大が見込める。さらに応用分野に適した高効率の素子が求められている状況にある。

 電鉄や電力の分野に加えて、産業用など各アプリケーションに対応した次世代大容量パワー半導体モジュールの開発などで製品ラインアップを強化する。SiC搭載デバイスの事業領域拡大を目的に主要な市場で拡販を狙うほか、改良を重ねて性能の向上を図る。

講演/「産業機器におけるパワエレの適用と効果」

省エネ・高機能・軽量化など訴求

  大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻 教授・舟木剛氏

 世界のエネルギー消費量と人口の推移を統計で見た場合、産業の発展とともに人類のエネルギー消費は増大してきた。一方、日本国内における最終エネルギー消費と実質GDPの推移で見ると、2013年度のGDPは1973年度の2・5倍となっているが、最終エネルギー消費は1・3倍と日本は健闘しており、中でも産業部門のエネルギー消費はGDPが増えてもほぼ横ばいとなっている。要は乾いた雑巾を絞っている状況にある。
 そういった中で”パワーエレクトロニクスとは何か“というと、半導体や回路といったエレクトロニクス、アナログ制御やデジタル制御といった制御工学、さらには回転機や静止器といった電気工学の融合であり、これらの技術をすり合わせたシステム技術である。ハイブリッドカーで見ると、停止状態から時速100キロメートルまで加速するのに3780キロジュールの運動エネルギーが必要となるが、これはエンジンの効率を考慮すると、カツ丼1杯分の熱量にあたる。加減速を繰り返すだけで、それだけのエネルギーが必要になる。国内のある自動車メーカーではSiCを使ったハイブリッドカーで、燃費を向上させている。
 日本の方式のハイブリッドカーはコストが高いため、欧州では”マイルドハイブリッド“として48ボルトの低圧システムを標準規格にして、環境規制に対応しようとしている。そのほか、新幹線の車両システムにおいても300系以降はVVVFインバータ制御を採用し、電力回生が可能になった。ただし、パワー半導体だけでなくシステムとして進化してきた経緯がある。駆動システムにおいてもSiC素子と走行風冷却方式の採用で、700系では1車両あたり約58トンの重さだったが、それが47トンになっている。

 あまり知られていないが電気需要の多い豪華客船では、推進用と船内サービス用の発電機の共用化を図った電気化が進んでいる。旅客機、産業用機械・ロボット、建設機械など幅広い領域で電動化やハイブリッド化が加速している。製鉄分野で用いられる圧延機の生産ラインにおいても電動化が進んでいるわけで、産業においてSiCやGaNといったパワーデバイスは省エネ、高機能化、小型軽量化、製品の高品質化、新機能創生などにつながるキーコンポーネントである。