価値創造型サプライチェーン検討会, 最新活動報告

リスクマネジメントのあり方 ~戦略的グローバルサプライチェーン~ 2014年3月13日

モノづくり日本会議は製造科学技術センターとの共催で2014年3月13日、仙台市宮城野区の夢メッセMIYAGIで、グローバル競争力強化関連事業の特別講演会「戦略的グローバルサプライチェーンリスクマネジメント(GSCRM)のあり方」を開いた。東日本大震災、タイの大洪水といった自然災害が発生した後の2012年に製造科学技術センターと共同して、同日本会議会員企業などをメンバーに立ち上げたサプライチェーン強化検討会グローバルサプライチェーン(GSC)リスク分析委員会(高田祥三委員長=早稲田大学大学院教授)の調査研究の成果発表会を兼ねた。東北/防災減災ソリューションフェア(主催日刊工業新聞社)の併催シンポジウムとして実施した。


趣旨説明
中小向け支援システム構築

製造科学技術センター調査研究部部長代理 間野隆久氏

日本のモノづくりは、バブル崩壊、リーマン・ショック、為替変動といった経済環境だけでなく、東日本大震災、タイで起きたような大洪水、この冬の大豪雪といった災害に見舞われたこともあり、厳しい状況に置かれてきた。そこで製造科学技術センターはモノづくり日本会議と共同で、災害への対応策をヒアリングするなどGSCRMの調査を行い、その結果をもとにリスクマネジメント手法の開発に取り組んできた。
 
特に大企業に比べてサプライチェーンのリスク対策の取り組みが遅れているとされてきた中小企業が活用できることを想定した評価ツールを提案している。今後はそこからGSCRMの支援システムを構築し、日本のモノづくりの活性化に役立てたい。

リスク評価のデータ蓄積

サプライチェーンリスク評価の考え方

早稲田大学大学院創造理工学研究科 教授 高田祥三氏

GSCリスク分析委員会の委員長を務めている。サプライチェーン(SC)は効率化が進展し無駄が排除されてきている一方で、在庫最小化によって不具合の吸収ができなかったり、リードタイム短縮で不具合の影響が急速に伝播(でんぱ)したり、脆弱化(ぜいじゃくか)も進んでいるのではないか。グローバル展開することでカントリーリスクなどSCのリスクも増大している。そのためリスクの評価が重要となる。発生確率と損失の大きさを掛け合わせることで、損失の期待値がわかるはずだ。例えばサプライヤーが密集していると地震などの災害が起きた場合生産停止に陥る確率が上昇する、といったかたちだ。そこからリスク回避や、リスクの除去、保険などを利用するリスクファイナンスなど、さまざまな処理の手段が見えてくる。

SC構造に内在するリスクの評価には構造全体の把握が必要だが、グローバル化したSC構造を末端まで把握することは難しい。組み立てメーカーが末端のサプライヤーについて完全な情報は得られないだろう。わからないものは評価できない、というわけだ。そこで製造業の場合、製品を構成する部品ごとのリスクを把握し、評価する。ある製品のある部品が欠品した場合の影響度を評価し対策を立てる。この際有効なのがSCリスクシミュレーション。これは単純な計算でできるもので難しくはない。
 
今後産業界としてはSCリスク評価に必要な基礎データを蓄積し、共通基盤とする必要がある。当委員会は、SCリスク評価のガイドラインの整備や、使いやすいSCリスク評価支援システムの開発にも取り組んでいきたい。

問われる経営者の姿勢

グローバルサプライチェーンの進展とその背景

機械振興協会 経済研究所調査研究部部長 北嶋守氏

日本企業の海外生産活動は中国、アジアを中心に増大しており、GSC構築は活発化している。アジアへの設備投資が増える一方、日本企業が欧州地域に進出した場合、部品などを日本から調達する比率は低下している。各地でのSCが重要となっている。
 
またGSC構造の変化は、産業のライフサイクルと密接にかかわる。薄型テレビを例にとると、2008年当時は液晶パネルを日本国内で生産し、海外で組み立てを行って、と国際的な生産分業の垂直統合型の構図があり、日本企業が優位に立っていた。ところがその後日本でパネル生産するメリットが無くなっていった。産業が成長し、成熟していくと垂直統合から水平分散型のGSC構造に変化する。今後はさらに、広域での経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)がGSC促進に影響する。その意味で環太平洋連携協定(TPP)も含め、日本政府の交渉力も問われる。
 
東日本大震災やタイの大洪水によってSCの脆弱性が露呈した。材料や部品の調達先が被災したり、調達先のさらに調達先が被災したり、特定分野で高シェアを持つ企業が被害を受けた場合SC全体に影響を与えた。対策として多くの大企業はSCの「可視化」に取り組んでいる。一方で中小の場合、震災後もSCの全体像を把握する取り組みができていない企業が多い。事業継続計画(BCP)策定も少ないのは、策定作業の人的余裕がないなど事情もあるだろう。しかし実際は企業規模に関係なくやるところはやっている。経営者がどう考えているかがGSCリスクへの対応を左右する。

適切な対策コストを判断

化学産業におけるサプライチェーンリスクマネジメント

旭化成 購買物流統括部企画管理グループグループ長 堀口裕氏

産業界から委員会に加わった。ほかにも日立製作所、富士電機、安川電機などからの委員もおられたが、化学産業の一員としてSCRMについての考えを話したい。
 
国内石化産業が抱える固有のリスクとしては、まず原燃料や希少金属の輸入依存度が高いことが挙げられる。エネルギーや原油、重油、石炭、ナフサといった原料の価格高騰などだ。為替レート変動でも収益は大きく変化する。国内需要の縮小もリスク要因だ。エチレンの国内生産はおよそ年間800万トンだが内需は500万トン。アジアの生産能力は拡大しており、国内生産能力は縮小せざるを得ない。さらに設備老朽化によるプラント事故のリスク増大もある。
 
これらを踏まえSCリスクを管理するための課題を洗い出している。リスクの種類は、政治的リスクも含む大規模災害、プラント事故、為替変動などのビジネスリスク、といった形で分類。リスクとなりうる項目をコスト試算も合わせてリストアップし、影響度、対策を考える。
 
どのリスクにどれだけのコストをかけるか判断は難しい。定量的にリスクを把握し理論武装しなければならないが、なかなか解はないというのが実感だ。例えば今後テロ対策のため航空貨物対策は強化されるが、物流の円滑化には相反する。日本の産業競争力に打撃を与える可能性もある。
 
政府は自然災害におけるSCを含む経済活動の機能不全を、起きてはならない最悪の事態として対策を進めているが、産業界からは(災害が)起きてしまった後の対応についての要望も強い。

パネルディスカッション
グローバルサプライチェーンリスクの定量的評価の試み

パネリスト
・秋田大学大学院 工学資源学研究科共同ライフサイクルデザイン工学専攻教授 三島 望氏
・早稲田大学大学院 教授 高田祥三氏
・機械振興協会 北嶋守氏
・旭化成  堀口裕氏
コーディネーター
・製造科学技術センター 間野隆久氏

評価手法をツール化 (三島)

三島氏

■三島 委員会の幹事として加わっているが、議論の前提としてGSCリスクの定量評価についてまず話したい。ここまでの話にあったようにGSCのリスクは東日本大震災などで顕在化し、もちろんセットメーカーごとに影響の度合い、対応策も異なった。全てのリスク事象に対策をとることは不可能に近く、どこからつぶしていくか、どの程度の費用をかけるのかを考えるために、リスクの定量評価が必要となってくる。
 発想の原点には設計や製造工程の問題点を解析する手法「FMEA」がある。そこではリスクの深刻度、頻度などを掛け合わせるが、GSCリスクについても、自然災害なら100年から1000年に一度といったリスク発生頻度、各リスクが起きた時に発生するインフラ被害の係数、代替輸送法を確保しているかどうかといった調達方法などを加味した直接影響係数を乗じて、リスク事象の重要度を定量評価する。委員会ではこうした考え方を今後ツール化して、代表的な製品の評価に用いてみる。
 
■間野 GSCの議論では何から取り組むべきかがまず議論される。できるだけ定量化できることが望ましい。
 
■高田 リスクの影響度と発生確率が問題となるが、確率を評価することは難しい。
 
■間野 できるところから評価をしていこうということだろう。
 
■堀口 産業界のリスク要因としては高度成長期に作ったインフラが古くなり、メンテナンスの手法などが継承されているかどうかも問題だ。業界内では各社情報交換も行っている。
 
■北嶋 円高が長く続いて、技術も人材育成も空洞化してしまった。円安傾向になってそれらが元に戻るといった単純な話ではない。新しいマーケットを作り出し、日本から新たな発信をしなければならない。

先を読み対応法準備 (間野)

■間野 産業界は読みにくい先を読み、何かが起こったときどう対応したらよいか考えておく必要がある。

■高田 早大でも今年入試時に豪雪があり、インフルエンザ対策もしていたので、追試の対応がスムーズにできた。リスクは事象、影響、対策を階層化し整理しておくとよい。
 
■三島 製品の作り方によってリスクは異なり、いろいろな確率を決めるのは難しいが、ある段階までの定量化はできるはず。GSCリスクのデータベースを整備したい。
(敬称略)