ネイチャー・テクノロジー研究会, 最新活動報告

未来の暮らし方を育む泉の創造シンポジウム 自然豊かな伊勢志摩で未来の暮らし方を考える 2016年3月14日

 科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST―RISTEX)「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域平成27年度採択プロジェクト「未来の暮らし方を育む泉の創造」(研究代表者=古川柳蔵東北大学大学院准教授)は3月14日、三重県志摩市のホテル志摩スペイン村で「第1回シンポジウム ―自然豊かな伊勢志摩で未来の暮らし方を考える」を開いた。同プロジェクトはライフスタイル(LS)を変えることで環境負荷低減と心豊かな暮らし方の実現を目指している。2016年度から志摩市でもLSデザインプロジェクトが始まるのに先がけて、環境制約下での心豊かな暮らし方実現の方法と課題を探った。


はじめに/環境制約下で心豊かな暮らし方実現

  東北大学大学院准教授・古川柳蔵氏

 「未来の暮らし方を育む泉の創造」は昨年JST―RISTEXに採択されたプロジェクトだ。暮らし方、LSを変えることによる環境負荷低減と心豊かな暮らし方の実現を目指している。
 我々の手法のポイントは二つ。まず、バックキャスト思考で将来の環境制約を踏まえてどうなるのかLSを描き、そこから今を振り返ってギャップを埋める。もう一つは、90歳の人から戦前の暮らしを聞き取り調査し、その中に未来のヒントを見いだす90歳ヒアリングだ。考える方法を変えること、昔から学ぶことで未来を描く。
 プロジェクトのモデル地区は以前から取り組んできた兵庫県豊岡市、岩手県北上市、鹿児島県沖永良部島。そしてこの志摩市でも4月からスタートする。
 2年ぐらいかけて、地元の人に手法を導入して、地域らしさを失わないLSを描く。次の2年で地域が自立してLSを描けるように基盤を作っていく。

 制約があるからこそ感じられる豊かさというものがある。便利な社会に移っていった人たちが、どうすればちょっと不便だけど、楽しい暮らしを見つけられるか。海女さんの文化が根付いているこの志摩市の皆さんと一緒に、未来の暮らし方を描いていきたい。

コウノトリと共に生きる―豊岡の挑戦/小さな世界都市へ4つの取り組み

  豊岡市長・中貝宗治氏

 豊岡市が目指す姿は「小さな世界都市」。この実現に向け「これまで受け継いできた大切なものを守り、引き継ぐ」「芸術文化を創造し発信する」「環境都市『豊岡エコバレー』の推進」「小さな世界都市市民を育てる」という四つの柱に取り組んでいる。
 豊岡エコバレーは、利益を追求する事業として環境に貢献する環境経済型事業に取り組み、環境と経済が共鳴するまちとする政策。農業では「コウノトリ育む農法」として、減農薬・無農薬米が成果を上げている。
 コウノトリが野生で暮らせる環境は、人間にとっても素晴らしいこと。コウノトリの野生復帰は、豊かな自然環境と豊かな文化環境をもう一度取り戻すことが最大の狙いだ。
 子供たちも田んぼに帰ってきた。田んぼと触れ合った子供たちは消費を増やせば生産が増え、環境もよくなるからと「給食で使ってくれ」と私を訪ねてきた。また、東日本大震災で被災した子供たちに届けようと運送費、袋代を募金と空き缶回収で捻出もした。

 考えることと、行動することの間には深くて広い溝がある。しかし、とにかく第一歩を踏み出し、軽々と越えていく子供たちに、未来の可能性を大いに感じている。

光り輝く未来を創りたい/ローカル基盤に環境と生命の成長両立

  東北大学名誉教授・石田秀輝氏

 地球環境問題は、テクノロジーの置き換えだけでは解決につながらない。発端は人間活動の肥大化にあり、必要なのは暮らし方を変えることだ。厳しい環境制約の中で心豊かな暮らしを送るにはどうすればよいのか。
 今日を原点にして将来を考えても、環境制約を踏まえると「がまん」しか出てこない。答えを見つけるにはバックキャスト思考で考えることが必要だ。
 現代の暮らし方は依存型(完全介護型)だが、心豊かな暮らし方は自立型(自給自足型)と言える。そして両者をつなぐ間(ま)の部分が抜け落ちている。この間に新しいLSがたくさんある。
 間を埋めて、自立型へと移行するための暮らし方やテクノロジー、サービスが求められている。そうした予兆はすでに始まっている。
 持続可能な社会とは「環境と経済成長の両立」ではなく、ローカルを基盤とした「環境と生命の成長の両立」だ。生命の成長とは多世代にわたる生命の循環を守り、厳しい環境制約の中で心豊かに生きること。その結果として経済成長にも貢献していくという姿だ。

 新しい暮らし方の形という視点で、一次、二次、三次という産業の境界を外すことが、間を埋めることになるだろう。

あじさい都市で実現する心豊かな暮らし/身近な地域資源守り 育て豊かに

  北上市長・高橋敏彦氏

 岩手県の南部にある北上市は人口9万3000人。旧村に由来する16のコミュニティーで構成される。
 北上市が目指す姿は「あじさい都市」。市内16の地域それぞれ、徒歩圏内に生活圏を支える都市機能を集中させ、都市全体を支える核や他地域と連携・共生する多極集中連携都市だ。各地域拠点が結びつき、地域の資源、魅力を生かして活力ある地域形成をすることで、色とりどりのあじさいを咲かせる。
 16の地域は職住近接で、農業は兼業。食は地産地消。遊びは職住近接で生まれた時間を使う。三世代近居で子育て負担の軽減、教育力向上を図る。
 環境・エネルギー施策としては、あじさい型スマートコミュニティー構想。メガソーラーで発電し、電力の売り上げを市民・企業の再生可能エネルギー開発に使う計画だ。
 身近な地域資源を発見し、守り、育てることで、地域を豊かにする「街育て」という活動にもこの十年来取り組んでいる。地域の人たちに居場所と誇りを作るのが目的だ。

 北上市では展勝地をモデル地区に、LSデザインプロジェクトを展開している。地域は子や孫からの預かりものなのだと考え、より良くして次の世代に返していきたい。

《ディスカッション/心豊かな伊勢志摩の未来の暮らし方を考える》

<持続可能社会実現>地方の情報・価値共有を/企業ノウハウも重要

豊岡市長 中貝宗治氏
北上市長 高橋敏彦氏
知名町企画振興課主査 永野道也氏
フルフォード・エンタープライゼズ CEOアダム・フルフォード氏
NECエナジーデバイス社長 澤村治道氏
日本リファイン社長 川瀬泰人氏
モデレーター:東北大学大学院准教授 古川柳蔵氏

 古川 この4月から志摩市でもLS変革プロジェクトが始まる。志摩市は将来人口が増えない中で「縮充」を図ろうと考えている。市の強みとして景観、文化・伝統、人のつながり、自然環境、食材、観光という6項目を活用した地域づくりと人づくりを推進する政策を進めている。
 沖永良部島の取り組みについて伺いたい。
 永野 鹿児島市から500キロメートル以上離れ、知名町と和泊町の2町で1万4000人が暮らす島だ。台風の大型化やサンゴの白化現象など環境問題の影響を感じる。島の文化は食、自然、集い、楽しみ・遊び・学び、仕事という失ってはならない五つの価値観が基盤だ。石田先生の指導の下、20年後の姿を描き、できることから実行に移している。
 古川 プロジェクトの4地域はみな自然環境が異なる。心豊かな暮らし方は自然環境に依存し、未来のLSが目指す方向性も異なってくる。外国人から見た日本はどうか。
 フルフォード 生態系の多様さが素晴らしい。ただ、35年前に来日したころと比べて、地元の「そこにしかないもの」を話せる人が少なくなっている。
 長年同じ地域で暮らしてきた人が一番大切な情報を持っている。高齢者が持つ、今は生かされていない情報を引き出さないと、世の中から失われてしまう。共有し、生かしていくことは急務だ。
 古川 日本の老人の知恵、考え方に関心のある外国人はどのような人なのか。
 フルフォード 東京や京都ではなく、ディープな日本を知りたがっている。地方の生活に出会い、その価値を感じ、地域に貢献できるという観光を求めている。壁は言葉。案内する人がカギだ。
 古川 自治体から見た地域らしさとは。
 中貝 欧米人は文化や歴史に反応する。自分たちの地域を深く掘っていかないと、彼らには対応できない。英語教育も大切だ。
 高橋 近くにある資源には自分では気づかないものだ。外から来た人に「なんでこれを売り出さないの」と言われたものを集めて、ふるさと納税の返礼にしたら、それまで年間300万円程度だったのが1億5000万円となり、その後も大きく伸びている。まだ外国からの、とはなっていないが、外からの目は重要だ。
 永野 地域の資源は自然だが、砂浜や森を歩くことの良さに島の人は気づかない。
 古川 持続可能な社会実現のカギは何か。
 澤村 経営は、最少の経営資源で最大の価値を得るために効率が問われる。付加価値をどれだけ早く見つけられるか、いかに自分たちを変えていけるか。企業には変化に対応するノウハウがある。
 電気自動車は理念はよいが航続距離が短いという人がいる。しかし、生活そのものが変容し、電気を自分でつくり、自分で使うようになると、自動車に対する考え方も変わってくるだろう。企業として、どうすれば受容されるのかを考えることが不可欠だ。
 川瀬 企業としては実装するからにはビジネスとして成り立つこと、利益を出せるようにできることが重要だ。
 当社は溶剤のアップサイクルに取り組んでいる。また、一昨年4月に、バックキャスト思考に基づいたコト・モノづくりに取り組む未来創造研究室を設置した。自分たちの技術をベースに、理想的な未来を描き、ギャップを埋めていこうと考えている。
 古川 自治体としてどう考えるのか。
 中貝 地方では人と自然、人と人のつながりを実感できる。地域社会では皆、役割を持っており、それが自分の存在意義になる。それを提供できることが都会とは違う強みだ。
 古川 未来の暮らし方を考えるプロジェクトを自分もやってみたいという人は、ぜひ一緒にやっていこう。

子供向けワークショップ

自然の”すごい力”学ぶ/クルクル回る木の実の模型作成

シンポジウム前日の3月13日には地元の子供たち25人が参加した「こどもネイチャーテクノロジーワークショップ」が開かれた。
講師は須藤祐子東北大学大学院准教授。人の活動が温暖化など多くの問題の原因になっていることと、この解決策を自然の中から学ぶことの意義を分かりやすく説明する。快適なアリ塚、壁に張り付くヤモリの足、動物に付着する種など、自然の”すごい力“を、クイズや実物展示も交えて紹介し、興味を引き付けていた。
講義の後半はフタバガキの実の模型作り。フタバガキの実は大きな2枚の葉がプロペラの役割を果たし、クルクル回転しながら風に乗って運ばれる。
型紙を切り抜き、木製ビーズに貼り付ける。葉の部分の反り具合、開き具合を何度か試しながらうまく調整して完成。初めてきれいに回転したとき、例外なく歓声が上がる。

自然への関心を喚起し、自分で工夫する楽しさを伝える充実した時間となった。