新産業促進検討会, 最新活動報告

新産業・ビジネス創出‐ビジネスモデル構想力向上検討会 2016年3月17日

今、何が欠けると企業は力を失うか
「ユーザーエクスペリエンスデザイン」を通じて企業戦略と価値創造を考える

 モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は3月17日、東京コンファレスセンター・品川(東京都港区)で新産業・ビジネス創出/ビジネスモデル構想力向上検討会「今、何が欠けると企業は力を失うか―”ユーザーエクスペリエンスデザイン“を通じて企業戦略と価値創造を考える」を開いた。モノが飽和し、機能性と品質だけでは売れない昨今、どのような価値をどう創造すればよいのか。ユーザーエクスペリエンス(UX=顧客体験)デザインの専門家を招き、課題解決に向けたアプローチを探った。


企業戦略の根幹―価値創造とUX

広義の顧客体験価値高めよ

オラクルひと・しくみ研究所代表 小阪裕司氏

 「いいもの」を開発し正当に売れていく仕組みづくりには、感性価値創造マーケティング、価値創造型サプライチェーン(SC)、オープンイノベーション、UXデザインの四つのカギがある。それらを包括するのが人の心と行動のメカニズムを軸にしたヒューマン・フォーカスド・セオリーという概念だ。
 UXデザインは、感性価値創造マーケティングから見ると、価値創造的に売るという現場を最初から織り込んだ商品開発が重要な要件となっている。オープンイノベーションから見ると、UXを軸にして、さまざまな企業が集まって創発的な商品開発を進めることにシナジーがある。
 ユーザーは機能や利便性を買うのではない。体験を買うのだ。レストランは体験を買う典型的な例だ。機能は「腹を満たす」だが、すてきな夜景が見えることで顧客体験価値は高まる。眺めがよくても、店員の態度が悪ければ体験価値は下がる。
 スマホは便利だが、それだけでなく、さまざまなアプリの利用も含め、全部がUX。ここまで考えたモノづくりが求められている。
 UXデザインはニアイコール、ユーザーインターフェース(UI)デザインだという狭義のとらえ方がまだまだ多いが、もっと広い意味で考えるべきだ。エンドユーザーにとっては、買う前から始まり、箱を開け、使って、さらに使った後の記憶まで含めてUXだ。ここを踏まえ、素晴らしいUXが常に供給される商品であれば、間違いなくファンを獲得し、評判が拡散されることで、ファンが連鎖的に増えていく。

 企業が傾く最大の原因は客離れだ。客離れさえしなければ、企業はつぶれない。だから、UXデザインが企業戦略の根幹をなしていると言えるのである。

人の心の中にある価値に訴える体験デザイン

価値観や理念、ユーザー五感で体感

memesスクエア代表 大阪デザイン団体連合会長 奥田充一氏

  2000年にシャープのソフトデザインセンターを設立し初代所長を務め、その後、04年から10年まで総合デザインセンター所長を務めた。ソフトデザインセンター時代からデザイン基本方針は「ユーザー体験をデザインする」であった。
 一方ユーザーは「物の所有から体験価値」を求めはじめていることから、その方針は総合デザインセンター長となってからも変わらず、シャープ総合デザイン戦略を立案推進してきた。
 商品デザイン開発は以下のプロセスで推進する。(1)事業課題を解決するための目標を設定し、(2)その事業目標に基づいてユーザーの潜在的価値を設定する。その潜在的価値を実現するデザイン企画を立てる(3)潜在的価値観を具体的な形で表現し商品像を創出する(4)さらにその商品像を具体的な商品に具現化する(5)商品情報は商品だけでなく、さまざまなメディアを使ってデビュー戦略を作成する―である。
 デザイン開発手法は、人が情報を理解するプロセス(memesメソッド)に沿って行う。
 ユーザーがサービスや商品を体験することは、人が情報を理解するプロセスと同様であり、そのプロセスは(1)発信メディア=ユーザーは商品やサービスからさまざまな情報をキャッチする(2)感受=情報メディア(商品やサービス)から五感でそれらの情報を感受する(3)連想=感受した情報を元に思いを巡らし感受した情報以上の情報を連想する(4)構造化=得られた全ての情報を自分なりにつなぎ合わせて商品の世界観と価値を理解する。この理解が自分も欲しいと変わると購買につながる(5)理解=そしてその商品やサービス体験を通じてその商品やサービスの理念や考え方の素晴らしさを感じると、商品や会社のファンになる。
 このようにはじめての商品やサービスに出会った時は、(1)発信メディア(商品やサービス)→(2)感受→(3)連想→(4)構造化→(5)理解の順番に理解が進むが、このプロセスをボトムアップ理解という。そして情報を理解し強い思い込みが生まれる。
 人は、一度理解した情報は理解のプロセスを踏まずに、即座に判断するようになる。これが、ブランド形成の重要な原理である。すなわち価値観や理念をユーザーに五感で体感してもらうように設計することがデザインである。
 事例としてヘルシオを例にすると、ヘルシオの事業課題は「過熱水蒸気調理の価値を伝える」「健康調理、ライフスタイルの定着」「ヘルシオブランドの構築」である。しかし大きな壁として、一般に電子レンジの価格はヘルシオの数分の1である。この差を乗り越えなくてはならない。電子レンジの価値は「早く、手軽に、温める」であるが、これをヘルシオの「健康、おいしい、創造的」へと、ユーザーの価値基準を塗り替えることができれば、受け入れられる。
 そこでデザインは「レンジの類型に入らないデザイン」「健康調理レシピの開発」「健康調理レシピの液晶メニューUI開発」とし、さらにはブランド構築のために「継続的アイコンと戦略的に革新する革新アイコンを開発」とした。
 基本造形はレンジとは全く異なる形状を意図的に創出し、色はそれまでの調理家電には無かった赤をアイコンカラーとした。これまでのレンジと全く違う形と色は店頭で、ユーザーを「なにこれ?」と立ち止まらせる。
 そのことが、販売員が健康調理の価値を説明する重要なきキッカケとなる。赤いアイコンカラーと健康調理レシピUIはヘルシオのアイコンとして定着し、ブランド構築に成功した。

 現在はモノを作りさえすれば売れる時代ではない。人が情報を理解するプロセスを基本原理とし、これに基づき、ユーザーの心に素晴らしい体験記憶を残す商品デザイン開発が求められているのである。

講演を受けて

小阪 今日の参加者からの質問を付箋に書いてもらった。素材や部品メーカーにおけるUXはどうか。
奥田 素材は商品価値を高める最重要アイテムだ。手に取るモノの場合、触覚や熱伝導率はとても重要だ。
小阪 UXの視点で確かにそうだ。
奥田 素材業界の価値基準では”失敗“材料でも、ユーザーの視点で”使える“と思えば採用する。例えば自己治癒塗料。業界は硬度が足りないからだめだと思っていたが、ユーザーから見るとユニークな価値になる。
小阪 早い段階で採用を決定できることが重要だ。
奥田 大企業は「うちとしては出せない」と、自分で自分を縛っている。業界で「ダメ」と言われているものは、業界に出回っていないのだから、外から見ればオリジナリティーにつながる。
小阪 ユーザーの体験価値をどうやって把握、分析、抽出するのかという質問がある。
奥田 ヘルシオの場合、販売の現場を見て気づく。パッケージはゴミ捨て場を見て、業界とユーザーの価値観の違いに気づけるかどうかだ。
小阪 ユーザーの体験価値は現場で仮説的に発見していくもの。ユーザーの感性に寄り添っていなければならないが、基本的にプロダクトアウトだろう。
社内調整や経営層への理解はどうなのか。
奥田 経営には感性の話は通じない。事業課題についての意見は一致する。商品企画も理解される。そこまでは言葉で書けるから。その先になると…
小阪 ユーザーが体験に価値を求める流れの中では、体験を提供されない商品からは離れていく。SCの川上を含めて、オープンイノベーションで議論し、すてきなUXを提供することがカギだ。