人材育成関連事業, 最新活動報告

モノづくり英語教育 グローバル人材育成検証 2016年3月30日

モノづくり日本会議とモノづくり産業教育イニシアチブは3月30日、東京コンファレンスセンター・品川で「モノづくり英語教育」をテーマに人材育成研究会を開いた。モノづくりのグローバル化が進む中、世界で通用する人材育成の重要度が高まっている。モノづくりに必要な英語教育に象徴されるグローバル人材育成の現状を、教育現場からの報告などを中心に検証した。


ガイダンス/「モノづくり人材教育に求められるもの」

教育と訓練セットに

日鉄住金総研客員研究主幹 山藤康夫氏

  全世界に日本企業の生産拠点がひろがっている。これまで人材育成研究会では世界で通用する人材を育成するための「実践的な教育」について考えてきた。特に参考になるのは、ドイツ語圏のデュアルスタディーなどの教育訓練システムで、ドイツでは教育機関と企業が密接につながっている。
また、教育と訓練はセットで考えるべきだ。教育とは理論や知識を学ぶことで、訓練は学んだ知識を消化して身に付けるプロセスのこと。今日はそれらを実践している方々に講演していただく。
 日本企業の海外事業部門の担当者にうかがうと、海外に赴任する生産技術者にはコミュニケーション能力や、異文化理解といった面の教育が大切だという。現地で信頼され、現地従業員を納得させるためには、十分なコミュニケーションを取らなければならない。つまりグローバル化は、企業にとって人材育成のチャンスでもある。もちろん日常的なコミュニケーションだけでなく、当該分野の専門用語の英語教育がまず必要だ。

工業技術英語教育の現状と展望

「3C」重視実践事例で学習

愛知県立小牧工業高校校長・安部則男氏

 愛知県は日本一の元気と暮らしの豊かさを目指してビジョンを策定している。そのために海外から企業や人材、資金を呼び込む。こうした国境を越えた経済の担い手として、グローバルな人材育成が求められている。昨年は高等学校の将来ビジョンが策定され、グローバル社会で求められる人材育成を進めている。
愛知県では全日制の県立工業高校16校のうち5校で工業技術英語が採択されている。多くは選択制でまだまだ少ない。指導者の数や質の問題もあると思う。英語は会議におけるプレゼンテーションや日常のコミュニケーションに欠かせないもので、工業技術英語では、簡潔に(コンサイス)、正確に(コレクト)、明確に(クリア)という「3C」が重視される。しかし検定教科書というものがない。これをピンチと捉えず、私はチャンスと考えた。テキストを作り、実践的な事例、基礎的用語を用いて取り組んできた。
例えば、工場でよく使われる言い回しがある。基本的な動作を明確に簡潔な表現で伝えなければならない。また、本校には自動車科がある。自動車は外来語が多く英語の宝庫だ。意欲のある教師が中心となって熱心に教育し、英語に慣れ親しませている。
工業技術英語は今後いっそう必要とされるはず。これまで学生に楽しく学んでもらうために、わかりやすく、飽きさせないことを考えて教材を作ってきた。また、教える側の教員ももっと学ばなければならない。

長岡技術科学大学の海外実務訓練 語学教育も含めて

世界中の派遣先、教員が開拓

長岡技術科学大学工学部教授・明田川正人氏

 1976年に創立したが、開学前から国内外でのインターンシップを構想していた。実践的技術感覚を体得させることが目的だが、海外に出てもらい国際的視野を広げる狙いもある。学部4年の後半にインターンシップで学ぶが、これは求人・求職活動ではない。これまでに1万1000人が実務訓練制度を履修し、そのうち海外派遣は650人だ。
長期間派遣するのが特徴で、国内は最大5カ月、海外は現地での語学研修1カ月を含んで6カ月。受け入れ企業は製造業を中心とする幅広い業種で、学生は派遣先企業の決定後に希望テーマを申告し、企業側と話し合ってテーマを決め、研究開発、生産技術関連などさまざまな仕事に就く。
受け入れ機関の開拓は全教員によって行う。海外への派遣は東南アジアが最も多く、2000年頃から特に開拓に力を入れており、派遣先が増えている。中でも本学はタイに事務所を設けている。今後さらに派遣学生を増やしたい。タイでの派遣先企業もここ2年で20数社開拓した。
派遣後は大学事務局が学生、企業と密に連絡を取りつつ、基本的に有償で働いてもらう。教員は現地の視察もする。学生は帰ってきたら報告会を開いて、そこで評価される。社会に出た卒業生に、5年後アンケートも行っている。また訓練企業についても大学側が事前・事後に審査する。

多くの学生を送り出して感じるのは、「学生は現場で鍛えられる」ということだ。

タイの実務訓練でのサバイバル体験記

内面を鍛えて正確な表現を

長岡技術科学大学修士1年・中川盛太氏

 昨年、タイにインターンシップで赴き、現在はタイの大学で超精密計測の研究に取り組んでいる。当初、スラナリー工科大学で語学研修し、その後、HDDの世界最大手・米ウエスタンデジタルのアユタヤ工場で、生産ライン自動化の機械設計などに従事した。同工場は世界からインターンシップを受け入れているが初の日本人だった。
日本から出てみたいという気持ちがあった。出身地の大阪から新潟に移った時にも文化の違いを感じたが、海外に行ったらどうなるだろうとわくわくした。しかも休学せずに海外に行ける制度で、利用しない手はない。
工場での最初の1カ月で語学力の不足を痛感した。モノづくりの現場ではいかに正確に伝えるかが大切。ボディーランゲージや表情を、上方落語で研究してみた。また技術者は共通の言語があるので図を使って伝えることもできる。

そうした結果「自分の中にないことは外に表現できない」とわかり、関心が高いことは表現できるようになった。つまり自分の内面を鍛えないとダメ、ということだ。

【パネルディスカッション】5カ月の海外実務訓練 実り大きく

●パネリスト
愛知県立小牧工業高校校長安部則男氏
長岡技術科学大学大学院教授明田川正人氏
長岡技術科学大学修士1年中川盛太氏
●コーディネーター
日鉄住金総研客員研究主幹山藤康夫氏

 

山藤 皆さんから素晴らしい話をうかがえた。東京と地方の工業高校の位置づけは違うと感じるが。
安部 愛知はモノづくり県で、自動車メーカーをはじめ100%の就職率だ。入ってくる生徒もまず就職を指向し、じっくりと手に職を付けようと考える。企業もそれに応えて採用する。
山藤 インターンシップ派遣先の開拓についても苦労がある。
明田川 アセアン全体を中心に、海外も基本的に教員が開拓する。タイで専門のコーディネーターを雇っていたこともある。
中川 留学のきっかけを与えてくれたのはありがたい。入学するまでは考えもしなかった。海外インターンシップ制度があることを学生にもっと知ってもらっても良いのではないか。
山藤 制度があるから、というのは重要なポイントだ。良い制度を作り、教員が派遣先を開拓するなど努力している例だ。全国的に見てインターンシップはもっと増やすべきだし、企業も協力しなければいけない。また、安部先生にうかがうが、工業技術英語の教科担任はどう決めるのか。
安部 春の異動の時期に適材適所のスタッフを会議で決める。まずは英語が好きな人、できる人。本当は誰もが指導できなければいけないのだが、科目として採用する高校を増やすには、英語が得意な教師をもっと増やさなければならない。私たちは工業技術英語の大切さをもっと広く知ってもらうために努力している。モノづくり学習の現場にネーティブスピーカーを招いて、生徒に説明させたりしている。そこで役立つのは文法よりも、まずしゃべる度胸だ。
山藤 中川さんの海外での度胸は大阪人特有だろうか。企業での5カ月間の実務訓練の終わりには英語で技術プレゼンテーションを行い、優秀賞を獲得した。
明田川 昨今は学力レベルの低下などが言われるが、5カ月実務訓練すればいろいろなことがなんとかできるようになる。短期のインターンシップとの違いは大きく、教育と訓練の重要性を感じる。

中川 昨年自分がタイに行くまでは本学のインターンシップ制度の歴史や、たくさんの人が実現のために動いてくれているということを知らなかった。多くの人に支えられていると感じる。インターンシップ制度が日本でもっと広がればよい。

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