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京都スマートシティエキスポ2016 2016年6月1~3日

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安寧で持続的な未来を創る地域と産業

京都スマートシティエキスポ2016は「安寧で持続的な未来を創る地域と産業」をメーンテーマに6月1―3日の3日間、国立京都国際会館(京都市左京区)での国際シンポジウムと、けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK、京都府精華町)での展示会「スマートシティメッセinけいはんな」の構成で開かれた。スペインのバルセロナ市が世界で展開するスマートシティエキスポ世界会議と連携し、2014年にアジアで初めて開かれて、今回で3回目。来場者は3日間延べで1万人を突破、うち海外28カ国から460人が訪れ、盛況に終わった。新たな試みとしてスマートシティーに関するアイデアを若手研究者から募る「次世代スマートチャレンジ」を実施した。


人とスマート技術共存へ

 主催者あいさつでまず登壇した服部重彦京都スマートシティエキスポ運営協議会会長(島津製作所相談役)は「スマート技術など科学技術イノベーションは日本再興の重要な要素となる。人とスマート技術の共存を探り、新しいスマートシティ像を創っていこう」と呼びかけた。続いて山田啓二京都府知事は「京都は人と自然が共存し発展してきた。スマート技術で我々の生活はまた大きく変わる。社会共生と結びつけた生き方として探っていこう」とあいさつ。門川大作京都市長は「年々、参加者は増え続けている。あらゆる科学技術が人類の進歩と幸福に役立っている。京都は文化観光都市であり、文化とスマートの密接な結びつきにも期待したい」とした。
 来賓からはホセ・カルロス・ガルシア=デ・ケベドスペイン経済競争力省貿易投資庁投資局長が「スマートシティは世界の発展の推進力のひとつで、その恩恵は計り知れない。産業政策など国家プランとして各国が取り上げている。スペインスマートシティネットワークには多くの企業などが参画する。この京都での会議で、スペインと日本とのパートナーシップ強化を楽しみにしている」と語った。

 国際会議は山極壽一京都大学総長の記念講演「コミュニケーションの進化と次世代のコミュニティ」で幕を開けた。その後、「IoTが推進する社会変革」「次世代エネルギー開発と省エネ・環境の取組」「地域資源を活用した街づくり・地方創生」「ICTが支える生活・文化の質の向上」をテーマにした分科会が開かれ、熱い議論が交わされた。そしてメーンテーマを掲げたパネルセッション「安寧で持続的な未来を創る地域と産業」で終えた。

コミュニケーションの進化と次世代のコミュニティ

先端技術と分化を融合

京都大学総長・山極壽一氏

  大学の総長と霊長類の研究者という二つの立場からスマートシティーについて意見を述べたい。私たちの社会は人口が増加し、集団規模が大きくなって言葉を必要とするようになった。基本にはあまり言葉を使わずに気持ちを察し合える家族というものがあり、複数の家族が集まった共同体もある。規模が大きくなると言葉と情報処理能力がより必要となる社会に進んでいく。
 社会の新しい段階はICTを活用し、サイバー空間とフィジカルな空間を融合させて豊かさをもたらすスマートなもの。さまざまな産業がそこに参入し、すべての人々が参加できるオープンサイエンス、オープンイノベーションが求められる。少子・高齢化が進む中、ともに生きる楽しみを見つけられる都市作りが必要となる。健康長寿社会を目指すには環境と医療への取り組みも欠かせない。京都で言えば先端技術に、文化・芸術をうまく融合させ、それらを学術が支えることを考えなくてはいけない。

 京都は歴史の古い成熟した都市であり、大学の街でもある。多面性や多様性を含んでおり、非常に許容力が高い。一方で情報が一元化されていない面もある。新しい情報技術を使いながら京都のローカルな魅力を発信し、明るい街づくりを進めていただきたい。

先進的スマートシティ構築に活かすビッグデータデザイン

都市で実証、市民参加で

リープクラフトCEOのヴィナイ・ベンカトラマン氏

  データ分析をスマートシティーにどう生かすか、という我々のアプローチを紹介する。今やデータは通貨であり原材料だ。かつてれんがで街をつくったように、データで街をつくっている。このデータを、デザインやサイエンスと統合する必要性が高まっている。
 私の会社があるデンマークのコペンハーゲンでは、都市の一部を実証実験に使う「ストリートラボ」という取り組みがある。街中にセンサーやWi―Fiを設置して、自動的にクラウド上へデータを取り込む。これにより、交通情報を天候や街のイベントなどの情報とリンクさせ、リアルタイムでシミュレーションができる。非常に野心的な取り組みだ。
 背景には、この都市が2025年までにカーボンニュートラルを目指すという目標を立てている点がある。こうしたアプローチは市民の十分な理解があってこそ可能となる。また、世界中の企業が集まるオープンなビジネス環境も大きい。
 スマートシティーとは技術だけでなく、コミュニティーの問題だ。従来とは異なる目に見えない技術とどう向き合い、コミュニティーを引っ張っていくかが注目される。積極的な市民の参加とスムーズな行政の密接な組み合わせが大切だ。

学習するコンピューターWatoson-経済社会はどう変わるか

人間の意思決定を支援

日本アイ・ビー・エム執行役員の吉崎敏文氏

  企業も団体も都市も、ヒト、モノ、カネに続くデータを確実に使いこなすことが重要となっている。ものすごい量のデータがあふれているが、とくに画像や動画をはじめとする非構造化データをどう活用するかで付加価値をつけられる。ワトソンはそれらを手伝うために世に出した。
 ICTの役割は最終的に人間の意思決定を支援する答えを出すことだと考えている。ワトソンの商用化には何年かの道のりがあり、AIとどう違うかといった質問もいただいた。ワトソンは構造化データや非構造化データ、人間のやりとりなどを感知して理解し、それに基づいて仮説を立てて推論する。つまりワトソン自身が学習する。学習には終わりがなく繰り返す。こうしたコグニティブな領域を意識している。
 人間が思いつかないような判断を示すこともある。実際に使われている都市銀行のコールセンターではオペレーターにワトソンが質疑応答のアドバイスをして対応時間を短縮している。ヒトゲノムの解析にも役立っている。文書や会話から、その人の感情を分析することもできる。ワトソンが情報を整理してアドバイスし、答えを出す。そういう社会が目の前に来ている。

【パネルセッション】十分な検証と縦割り構造の打開を

【コーディネーター】
 地球環境産業技術研究機構理事・研究所長 山地憲治氏
【パネリスト】
 資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部政策課新産業・社会システム推進室室長補佐 青鹿喜芳氏
 NPO法人KES環境機構理事 長畑和典氏
 ラバル大学教授都市科学共同研究所長 セバスチャン・トランブレ氏
 シスコシステムズグローバルヘッドオブマーケットデベロップメントIoTマシュー・スミス氏

 スマートシティーの進化で暮らしの利便性は向上を続ける。だが一方で、その発展を安定的に持続できるかが、大きな課題となっている。企業、行政、NPOなどそれぞれの観点から、行動すべき方向性が議論された。
 コーディネーターである地球環境産業技術研究機構の山地憲治氏は、政府が進める「ソサイエティー5・0」を紹介。民間部門での省エネ推進のために、エネルギーシステムと情報を統合する必要性を説明した。その上で、「スマート社会のビジネス展開のためには、エネルギーマネジメントシステム(EMS)にどのような付加価値をつけるかが重要だ」と投げかけた。
 経済産業省資源エネルギー庁の青鹿喜芳氏は、スマートコミュニティー実証実験の事例を紹介した。横浜市、北九州市、愛知県豊田市、関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)の4地域で実施され、コミュニティー単位のEMSの開発や、蓄電池の総合制御システムの構築など、新しい展開が広がったとする。その上で、コスト回収可能なビジネスモデルを構築する難しさや、事業全体の推進役の少なさなどを課題として挙げた。
 NPO法人KES環境機構の長畑和典氏は、ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点からの検証不足を指摘。「省エネな製品やサービスが、省エネな方法で生産できるとは限らない」と投げかけた。また、エネルギーミックス(電源構成)の議論については、「集約か分散かという二者択一論では不十分だ」と指摘した。
 カナダのラバル大学のセバスチャン・トランブレ氏は、カナダのケベックでの産学官連携の事例を紹介。都市構造の複雑化により、全体を管理することがますます困難となっていると分析した。その上で、「市民の立場からデータをいかに活用していくかが大切だ」と訴えた。

 シスコシステムズのマシュー・スミス氏は、「縦割りの組織構造が、問題解決を大きく阻害している」と指摘。公的機関による適切なデータ管理の必要性を訴えた。ただ、データ管理には情報セキュリティーの懸念も出てくる。「データセンターへの信頼感も、経験を重ねることで高まるのではないか」と、長期的な視点で語った。

魅力的なスマートシティー発信 スマートシティinけいはんな

 2、3日はKICKに会場を移し「スマートシティメッセinけいはんな」が行われた。最新動向などのセミナー、企業や自治体、研究機関などによる展示会が開催された。
展示会にはシスコシステムズ合同会社など海外や、日新電機やオムロン、島津製作所など地元京都をはじめ、パナソニック、ダイキン工業といった多くの大手企業ら124社・団体が出展、最新の製品や技術などを提案した。
山下晃正京都府副知事は「安寧な社会を作ることが最大の目標、エキスポにはビッグデータやAIなどそのための大きなテーマがある。けいはんなではリサーチコンプレックスなど新たな取り組みがめじろ押しで、京都から魅力的なスマートシティーを発信していく」と意気込みを語った。
展示会は「安心・快適な日常生活を営む」がテーマ。京都大学「しなやかほっかり社会」拠点などが出展する企画展示ゾーン、福島県や大阪市など自治体のスマートシティプロジェクトゾーン、ICTや環境関連、アグリなど最新の取り組みに熱い目が注がれた。

 来場者は、デイビッド・エレンバーグブルックリンネイビーヤード開発会社社長の講演「イノベーションに向けた空間開発」、ジェリー・M・ハルティングローバルフューチャーグループ理事長の「都市の未来を問う」に聞き入り、オムロンの「ネットワークカメラセンサを使った問題解決型ビジネス」、日新電機の「太陽光発電と蓄電池による自然エネルギーの上手な使い方」などビジネスセミナーでは熱心にメモを取る姿が見られた。エネルギーや通信、環境などの先端動向や実証実験を紹介、多くの来場でにぎわった。


基調講演/「地域に貢献できる研究を」

地域に貢献できる研究を

カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授・金出武雄氏

  アメリカの大学は、常にグローバルさを宣伝するが、実は驚くほどローカリズムが強いと、私は感じる。地元企業は、技術習得のために社員を大学に派遣し、大学も、学術的なレベルを超えて直接的に地域社会に貢献する意識を持っている。
 カーネギーメロン大学ロボット研究所の一部であるナショナル・ロボティクス・エンジニアリング・センター(NREC)も、ピッツバーグ(ペンシルベニア州)の活性化に大きく貢献した。同市は、1950年代をピークに製造業・鉄鋼業が衰退。新たな産業育成が求められていた。
 そこにNRECが誕生したことで、地元企業の工場設備などが一新され、街のインフラも改善された。メディアから「ロボバーグ」と呼ばれるほどロボット産業が発展し、街の商業施設や住宅環境も改善されたのだ。
 まさに、教育と研究開発にコマーシャリゼーションを含めた組織となった。当初300万ドル出資で始まった研究所によって、3億5000万ドルも街に落とすことができたのだ。

 成功要因の一つは、研究者や学生らに「現実にある問題を解こうという意識が強い」ことだ。世間のニーズを考え、シナリオのある研究で学生を育てることが重要なのだ。

スマートシティセミナー
「災害時にSNS活用」

情報通信研究機構(NICT)ユニバーサルコミュニケーション研究所長・木俵豊氏
ブルックリンネイビーヤード開発会社社長兼CEO ディビッド・エレンバーグ氏

  スマートシティセミナーでは、国内外の取り組み事例が紹介された。ブルックリンネイビーヤード開発会社のデイビッド・エレンバーグ社長兼CEOは、米国・ニューヨークの経済発展の基盤となる再開発事例を紹介。起業家を呼び込むには「働きたいと思う場所作りが大切」と語った。
 情報通信研究機構(NICT)の木俵豊ユニバーサルコミュニケーション研究所長は、熊本地震時に活用された、災害時のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)分析システム「DISAANA」を紹介した。エリアを指定し質問を入力すると、SNS上の災害関連情報をリアルタイムに意味的に深く分析でき複数避難所の不足物資やデマに対する注意喚起も行える「ある意味で人工知能(AI)」という。
 北海道下川町の谷一之町長は、町の面積の88%を占める、森林資源の活用例を披露し、森林バイオマスボイラー導入による地域熱供給センター設置などを紹介した。今後は熱電併給に取り組み、「エネルギー自給の100%を目指したい」と目標を語った。

 ASUS・クラウドのピーター・ウーCEOは、台湾の企業、行政、病院、公的研究所など「いろんな領域のパートナーを選んだ」という取り組みを紹介。大気汚染の状態をリアルタイムで調べ、台北市にオープンデータとして提供している例をプレゼンした。

次世代スマートチャレンジ/優秀賞に5件選出

 スマートシティー実現には斬新な知恵が求められる。そこで今回初めて行われたのが「次世代スマートチャレンジ」だ。若手研究者らからスマートシティーの事業化アイデアを募集、顕彰する。35件の応募があり、5件を優秀賞に選出、それぞれにサポーター企業賞が贈られた。
 シスコシステムズ賞を受賞したのはStrobo、座るを見える化し座りすぎを解消するスマートチェアサービス「cuxino」を提案した。オムロン賞はチトセ・ロボティクス。知識無しでロボットを管理できるクラウドマネジメントサービスで、最短3分で利用できる。
 京都銀行賞はスマートマップ・ドットJPのスマートマップ「京都ポータル」、スマホで自分だけの京都ガイドが作製できる。京都リサーチパーク賞は京町家の遠隔入退室管理を提案した「スマート京とびら」開発プロジェクト。審査員特別賞は京都マイクロシステムズで、適量点眼できるデバイス。

 シスコシステムズ賞は賞金30万円など、事業化サポートが用意されている。審査員を代表して西本清一統括アドバイザーは「スピードがベンチャー企業のいいところ。すばらしいアイデアを一日も早い事業化を」と期待とエールを送った。

グリーンイノベーションフォーラム「農作業で人間を豊かに」

京都造形芸術大学教授・秋山豊寛氏
国際高等研究所所長・長尾真氏

  けいはんなグリーンイノベーションフォーラム(KGI)の、池内了代表代行が「地下資源文明は、いずれ終焉を迎える」といい、個人が責任を持った形で、文明を構築することなど、同フォーラム設立に至った経緯を紹介した。その後、講演が行われた。
 京都造形芸術大学の秋山豊寛教授は、大学で「大地に触れる」という授業を担当。「農民にとってのアートは、美しい田畑を整えていく、その中から収穫を得る、そんな感じで農家の人は働いているんじゃないか」と、自身の農業体験を踏まえて分析した。「農作業を媒介に五感を養う」ことに取り組み農業を通じて触る、感じる、味わうこと、相互関連することが「人間を豊かにする」と語った。
 長尾真国際高等研究所長・元京都大学総長は、自然豊かな林間に人間が住み、人間性の回復、効率の高い、社会活動、企業活動の実現につながる林間都市の考え方を披露。「けいはんなには、12のゾーンがあり、ゾーンそれぞれをうまく育て、効率が良く、生産性も高く、楽しく生活できるような都市にデザインすることが必要ではないか」と提案した。

 同志社大学の千田二郎教授は、地域資源を活用したバイオマスエネルギーの活用による、ガス化発電システム、太陽光発電で利用して、水を電気分解し、水素を作り、液化して燃料電池に使うなど、「系統からの電力供給を減らし自律化を進める」などの取り組みを紹介した。

けいはんなリサーチコンプレックス/心理面抜きに商品成り立たず
~超快適スマート社会の実現目指して、五感・脳情報科学への期待~

  3日、けいはんな学研都市で進む「けいはんなリサーチコンプレックス(KRC)」FSの連携プログラム「超快適スマート社会の実現を目指して、五感・脳情報科学への期待」が行われた。
 基調講演に立った廣瀬通孝東京大学大学院情報理工学系研究科教授は「感情や感性など心理面抜きにして商品は成り立たなくなった。情動、心の問題、快適性の時代が到来している」と快適社会創出には五感や情動の技術が不可欠だと訴えた。
 井澤裕司立命館大学経済学部教授が「付加価値はどこから生み出されるか?行動経済学の観点」を特別講演、イノベーションを生み出すためのアントレプレナーシップなど課題を提起し、廣瀬教授や藤本良一日本ベンチャーキャピタル執行役員西日本支社長らとパネルディスカッション形式で討議。「けいはんな地区はまとまりが良く、感性工学やアートなど他地区ではまねできないことをしている」など意見が交わされた。

 KRCは科学技術振興機構(JST)の事業「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」にFS拠点採択され、けいはんな地区に研究拠点を持つ多くの大手企業や公的研究機関の参画で、検証を進めている。五感や脳情報科学などで最先端の研究が多く、これらを基に超快適スマート社会実現と新産業創出を目指すオープンイノベーションを進めている。