ネイチャー・テクノロジー研究会, 最新活動報告

ネイチャー・テクノロジー研究会シンポジウム 2016年6月23日

 モノづくり日本会議は6月23日、東京コンファレスセンター・品川(東京都港区)でネイチャー・テクノロジー研究会シンポジウム「地域を創るひとを育てる―新しいライフスタイルと教育の観点より」を開いた。地方創生が国を挙げて推進されている。自律的かつ持続的な地域の構築には、未来を担う次世代の参画が不可欠だ。地方創生の「ひと」に着目し、自律的な地域社会の構築を担う多様な「ひとづくり」への取り組みを議論した。
(共催)
国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域平成27年度採択プロジェクト「未来の暮らし方を育む泉の創造」

【基調講演】孫が大人になったときにも光り輝くまちつくり!

依存と自立の間を埋める技術カギ

東北大学名誉教授 地球村研究室代表 石田秀輝氏

 昨年から小学6年生の国語の教科書に、私がネイチャー・テクノロジーの概念をまとめた「自然に学ぶ暮らし」が掲載されている。子供たちから届く手紙を読むと「環境のために我慢」という意識が強い。厳しい地球環境の中で、我慢しなくても心豊かに暮らせるという希望を与えたいと強く感じている。
 猛烈に劣化する地球環境問題、物質的な消費欲求の劣化という二つの限界が社会の閉塞感を生み出している。生活価値の不可逆性という欲の構造を認めた上で、ライフスタイルそのものを変えることが必要だ。
 ポスト資本主義や新定常化社会という価値観の予兆ははっきり現れている。80年代半ばから、物より心の豊かさを求める人がどんどん増えている。
 今の暮らし方は、依存型だが、多くの人が望んでいるのは自立型のライフスタイル。この依存と自立の間、間(ま)が抜けている。この間を埋めることを考えられるような人を育て、あるいはここを埋めるための新しいテクノロジーの概念をつくりたい。
 地方は東京の受け皿ではない。ローカルの風土・文化の多様性から生まれる有形無形の価値をつくり上げ、それを地域からの視点、地域外からの視点で見る。そのような思考回路が求められる。
 子供たちの手紙を読み、あの子供たちが大人になった時にも笑顔があふれているようになってほしいと願う。だからこそ、少なくとも子供たちには多様な考え方を理解し、自分の頭で考え、自分の言葉で表現できる力を持たせたい。光り輝くローカルの価値をつくってあげたいと思う。

文化や芸術で地域を振興する人づくり―公益財団における人材育成

目的意識の醸成がポイント

福武財団事務局長 金代健次郎氏

 ベネッセアートサイト直島は、ベネッセホールディングス、ホテル経営の子会社の直島文化村と公益財団の3組織で行っているアート活動の総称だ。瀬戸内海の五つの島々に16の施設・アートサイトを設け、その場所の歴史や民俗を発見し、島の人には誇りを、訪問者には再生の手掛かりを与えている。人口3200人の直島に年間50万から70万人が訪れている。
 そこに住んでいる人がこの場所はいい場所だ、自分が生きていてよかったという場所をつくろうということが基本的な考え方だ。この活動においては持続性が非常に重要だ。
 文化や芸術による地域振興は、「箱モノ」による地域振興や、イベント中心の一時的な振興を目指すものではない。また、アーティスト、建築家、住民、顧客、行政などステークホルダーが多様で、利害関係、その地域の歴史的な背景、政治・行政の動向などからさまざまな軋轢(あつれき)が生じる中で、持続的に取り組むことになる。
 そういう中で、運営に携わる人材には、地域社会や日本の現代社会のあり方、現代アートの持っているメッセージ性、あるいは世界のアートシーンの中における作品のあり方など、非常に高いレベルでのリベラルアーツが必要だ。例えば地域の反対者の人たちを味方にしていこうときには、幅広い教養と、全ての人たちを理解する力が不可欠だ。

 人材育成のポイントというのは、目標達成から目的意識の醸成へと替わりつつある。何かやればいいということではなく、自分たちは何に向かって近づいているのだという努力を進めるべきだろう。

地域の心豊かな人づくり

教員はサービス業 生徒と向き合い共育

三重県立宇治山田高等学校教諭 牧田平氏

 私は6年前に定年退職・再任用を経て、今年4月から時間講師を務めている。教員生活のスタートは1974年の度会高校。生徒を大切にするということを一番の目標として現場に臨もうと思った。
 度会高校は生徒数300人に満たない小さな学校だ。そこで出会ったある先生の「教員はサービス業。本気で生徒と向き合ってサービスするんだよ」という言葉は今でも私の太い骨だ。
 私は国語の教師だが天気がいいと外に出て本を読んだり、歌を詠んだり、朗読したり、そんなことをやっていた。あるときは渋柿を食わされ、またアユ捕りに出かけ、山芋掘りにも生徒と行った。
 度会高校の次は宇治山田商業高校、そして農業高校の明野高校に勤務した。なかなか言うことを聞いてくれず、どうしたものかと考え、農業実習に一緒に行ってみた。はじめは変わった先生だと思われたようだが、毎回毎回行くうちに生徒から話しかけてくるようになり、距離がずいぶん近くなっていった。

 現在は宇治山田高校に勤務している。創立120年ほどの名門進学校だ。受験勉強をしながら感じたことは、生徒はどんなに立派な人が教えても、本人にその気がないと勉強してくれない。ところが生徒と付き合っていると、ある瞬間にポンとスイッチが入ることがある。すると、どーっと伸びていく。そうしたときに教育というのは共育だと感じる。これからもいろんな意味でどんどん成長していってくれたらいいかなと思いながら、自分も一緒に育っているなという感じを持って、今でも教壇に立っている。

地域社会の未来をひらく「場」の創造

対話重ね共創をマネジメント

富士ゼロックス復興推進室長 樋口邦史氏

 当社は東日本大震災発災後、盛岡に拠点を構え、後方支援をした遠野市、被災地となった沿岸地域に対する復興推進活動を行った。その後、遠野市長から被災地の後方支援拠点としての遠野市を研究し、遠野の未来を一緒に考えようという話があり、「みらい創り」活動がスタートした。
 2014年4月に「遠野みらい創りカレッジ」を立ち上げた。コミュニティー、組織、行政、研究機関と連携したある種の事業モデルだ。遠野と同様な後方支援拠点を西日本エリアの各地に設置し、地域の安全・安心の仕組みづくりに貢献することが狙い。当社は災害が起きる前に企業としてなすべきことと捉えている。
 カレッジは、2年目には交流、暮らしと文化、産業創造の3カテゴリーで7プログラムを運営した。カレッジ成功のポイントは(1)行政ではなく民間企業が主導(2)閉校した中学校を活用(3)富士ゼロックスの地道でアナログなアプローチ―の3点だと言われている。
 カレッジは行政、企業、コミュニティー、大学・研究機関がまち創り経営、プロジェクト、地域活性化、学生の体験までスパイラルアップしていく場となっている。行政とコミュニティーは対立し、企業と大学も温度差があるが対話を重ねることで前進している。

 地域とのコミュニケーションには、コミュニケーション・コーディネーターが地域社会の中に入って関係性を構築しなければならないが、できる人材は限られている。また、問題解決を目指す関係の質をまず変革して、思考と行動、課題解決に導く共創マネジメントが必要となる。

【パネルディスカッション】
教育から考える、心豊かな地域の未来への道程

■モデレーター
東北大学名誉教授
地球村研究室代表 石田秀輝氏
■パネリスト
三重県立宇治山田高等学校教諭 牧田平氏
福武財団事務局長 金代健次郎氏
富士ゼロックス復興推進室長 樋口邦史氏
近畿大学建築学部教授 木村文雄氏
東北大学大学院准教授 古川柳蔵氏

目線を地域に合わせ、間合い・伝え方が重要

石田 登壇したお三方に加え、古川さん、木村さんを交えて議論をしたい。古川 社会技術研究開発センターに採択されたプロジェクトでは、環境制約を踏まえた新しい暮らしの価値を生み出すための手法の実証に取り組んでいる。制約の中の豊かさを学び取る90歳ヒアリング、バックキャスト思考によるライフスタイルデザインの二つの手法が柱になる。
 自治体と協力しながら地域への手法導入に時間をかけ、地域で自立してみずからライフスタイルを描けるように基盤を作り、描いたライフスタイルを実装し、持続可能な社会に向かうことを目指している。
 心豊かな暮らし方は地域の自然環境に依存しており、地域ごとに異なるものとなる。ライフスタイルは外部からの押し付けではだめだ。90歳ヒアリングは地域に入るための有効なツールになる。
 木村 4年前にハウスメーカーを定年退職し、大学に移った。近畿大学には1年生のときに基礎ゼミナールという、10人ぐらいずつで1カ所3週間、いろいろな先生のところを回る授業がある。私は「2030年の心豊かなライフスタイルを考える」をテーマにしている。まずバックキャスティングの解説をし、20分ぐらいアイデアを考えさせ、お互いに考えを話し合う。次にウエルバランスマップを作りアイデアを整理させる。宿題も含めてアイデアシートを作成し、3回目に発表して、質問・講評をする。この過程でアイデアに対して実現性などの調査もさせている。
 仕事としてはバックキャスティングに基づいたパッシブデザインの実験住宅や動力を使わない換気などに取り組んでいる。
 石田 講演いただいた皆さんに共通しているのは、目線を地域に合わせるということ。難しさをどうやって乗り越えていくのか。
 金代 半歩現実・半歩未来という感じだ。あまり中に入らない、あまりとんでもない提案をしないという、間合いが非常に大切だ。
 樋口 地域社会に分かりやすい表現、伝え方が重要。報告会などで今後のことを共有していったことが一番のポイントだった。
 金代 地域に入るために重要なことは、地域の人の生活、文化をどれだけ深く理解するかだと思う。
 樋口 それは絶対にはずせない。もう1点は、地域社会の人たちと一緒になって何か行動を起こすこと。
 石田 教員はサービス業だと言うがそういう教員は少なくなっているように思う。
 牧田 私は先輩の姿を見て、自分も実践してきた。うちの学校では最近になり少しずつ増えてきた。
 石田 人間くさくやらないとだめなんですね。
 木村 大学には学生と寄り添う体質はあまりないと思うが、企業出身者が大学に入ることで徐々に変わってきているように感じる。
 石田 最後に、何を求めて今の仕事をしているのかひと言ずつ。
 古川 日本のよさが地域にいっぱいある。深いところにある価値を残し、未来に向け変換していきたい。
 木村 ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)というベクトルでよいのか。違う解決方法を生み出さなければいけないと考えている。
 樋口 とにかく震災が起きる前に、自分にしかできないことをやり続けたいと思う。
 金代 地域社会に入っていくということは、求められるレベルが企業と全然違う。そこにおもしろさがある。
 牧田 生徒には、胸躍るような仕事に就けるようによく勉強して、職を選ぶようにと話している。
 石田 どれほど技術が発展しても、原点は人ですね。ありがとうございました。