価値創造型サプライチェーン検討会, 最新活動報告

価値創造型サプライチェーン検討会 2016年8月25日

 モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は8月25日、東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)で、価値創造型サプライチェーン検討会「価値創造型マーケティングの本質とこれからの展開」を開いた。「いい商品なのに売れない」理由の一つに、商品の持つ「価値」がエンドユーザーに伝わっていないということが挙げられる。業種・業態、規模の異なる3社の事例を交え、価値をどのように伝えていくか、作り手と売り手がどのように協働していけばよいかを探った。

【基調講演】心に働きかけて行動を変える

オラクルひと・しくみ研究所代表 日本感性工学会理事 小阪裕司氏

 この検討会は、ヒューマン・フォーカスド・セオリーに基づいて「いいもの」を開発し、正当に売れていく仕組みづくりを考えることが趣旨だ。価値創造型サプライチェーン(SC)、感性価値創造マーケティング、ユーザー・エクスペリエンス・デザイン(UXD)、オープンイノベーションという四つの視点が、それぞれ関連し合っている。
 今日のユーザーは、モノのスペックを買っているのではなく、ワクワクする体験を買っている。商品開発にUXDという軸が重要となっている。UXDが成功するには、価値創造の最前線である売る現場、場面を最初から織り込んだ開発が欠かせない。そのためには、SC全域参加での価値創造・共創型の商品開発がカギになる。そして実際に売れていくには、この商品の価値をSCの上流から下流、そしてエンドユーザーに着実・的確に伝えることが不可欠だ。
 売り上げという現象は、顧客の「買う」という行動がなければ成り立たない。この行動は人の心によって生み出される。いかに人の心に働きかけ、心を動かして行動を生み出せるかにかかっている。
 今社会は大きな変化の真っただ中にある。一つは量的な変化。未曽有の人口減少社会を迎えている。もう一つは質的な変化。消費がモノの豊かさではなく、心の豊かさに向かっている社会になった。
 物質文明的な消費である「havingの消費」から精神的に充実して生きる「beingの消費」にシフトする中、商品価値は機能や性能だけではない。感性価値や体験価値の高い商品・サービスが求められている。
 顧客のクラスターが島宇宙化しているという視点もある。そこでは感性価値に基づいて、ある特定の商品やサービスが熱狂的に消費されている。
 奈良の薬師寺がある刀を1日限定で公開した日は5000人を超える女性が殺到した。彼女らは実在の刀を擬人化したキャラクターで対戦するオンラインゲームの愛好者だ。
 そういう今日、いかにして価値ある新商品・サービスを開発するかも大事だが、既存の商品・サービスの価値創造をきちんと行うことが重要になっている。その価値を流通の過程で途切れさせず、顧客の手元に届くようにするため、SC全体で価値創造に取り組むことが不可欠だ。
 ある販売会社が、抜群にいい商品だが高いから売れない(と思っていた)雪かきスコップの価値創造に取り組んだ結果、2年で売り上げが56倍に伸びた。その取り組みの一例が、チラシなどによる「イライラしない雪かきあります」というメッセージ発信。ユーザーにとっての「価値」はスコップのスペックではなく、雪かきに伴うストレスを解決できる方法だということに気づけるかどうかがカギだ。

 価値創造型マーケティングとは、人の心に働きかけて人の行動を変える、または生み出す営みであり、それを行うことで売り上げを、ひいてはユーザーや顧客を増やしていくことが目的だ。

【特別講演】カカオの「価値創造」
ーチョコレート市場を牽引する新しい価値提示

顧客にとっての価値を増幅提示

明治 執行役員菓子開発研究所所長 岡屋英二氏氏

 日本のチョコレート市場はここ数年非常に伸びている。成長をけん引しているのは健康志向チョコと価格訴求の袋タイプのチョコである。シニア世代の活発な消費、チョコに対する意識の転換、消費場面創造へ向けた形態の多様化などが背景にあると考えられる。
 カカオの栽培は中米が発祥。4000年の歴史の中で、古来カカオドリンクとして飲まれてきた。おいしさ以上に滋養強壮の飲み物として珍重された。
 カカオやチョコレートの健康機能価値を伝えるには裏付けが必要だ。愛知県蒲郡市、市民病院、愛知学院大学と共同で臨床試験を実施した。400人の市民が参加し、1日25グラムのチョコを4週間毎日食べるという内容だ。結果は動脈硬化リスクの低下、認知症予防の可能性、便通改善の効果を見いだした。
 カカオ・チョコレート研究は、信頼性のある事実を提示できることにより、4000年というカカオの歴史考察につながること、「体に悪い」という今までのイメージとのギャップが新たな顧客を誘導することにつながっている。
 チョコレート業界では「ビーン・ツー・バー(豆から製品まで)」という新しいトレンドがある。世界のチョコレートビジネスは分業化が進んでいる。コンシューマービジネスを手がける大手チョコメーカーも、こだわりチョコを販売する専門店も加工したチョコ生地を買っている場合が多い。だからカカオ豆の選別から発酵、焙煎(ばいせん)し、チョコとして仕上げるまで一貫して手がけるビーン・ツー・バーが価値になる。
 当社はもともとビーン・ツー・バーでやっている。菓子開発研究所のスタッフがブラジルやエクアドルなどで高品質カカオ豆の研究に取り組んでいる。特に日系人中心のブラジル・CAMTA農協は日本人の価値観を持つ最高のパートナー。指定の発酵方法による生産を委託している。9月27日にはビーン・ツー・バーにこだわる「明治ザ・チョコレート」の新作を発売する。
 価値創造の本質は何か。1996年発売の「ガルボ」は圧力差を利用して焼き菓子にチョコをしみ込ませる特許技術の含浸製法を用いた商品だ。2005年にサイズ半分、表面艶付けのガルボミニを投入した。小袋にしたコンビニ専用商品だが、10年以上チョコレートカテゴリーの上位にある。
 購入者調査では含浸や新食感など、商品の物質としての基本価値は意識されていない。静かなオフィスでおなかがすいたときに、人知れず食べられることが魅力になっている。また、かまないと溶けない品質特徴が、空腹充足やストレス発散といった新たな価値につながっている。

 独自性のあるモノとしての基本価値がなければ商品自体成り立たないが、真の商品価値は顧客が決めている。大切なのは、顧客が創り出している価値を我々が見抜き、それを増幅して提示すること。顧客と向き合うにはインテグリティー(真摯〈しんし〉さ)がもっとも重要な心得だ。

【講演を受けて】

顧客との価値の”輪”が重要(小阪氏) 創発には一対一での議論を(岡屋氏)

小阪 会場から、熱意や専門性をどのようにして社員に伝導しているのかという質問が寄せられている。
 岡屋 小売業の方を含め、皆さんに語り続けている。方法論よりも、私という人間を理解し、共感を得ない限り何も起こらない。
 小阪 誰もはっきりと答えを持っていなくても、何かできるのではないかと議論することから新しいものが生まれてくる。
 岡屋 創発には一対一での議論が不可欠。自分の思いを伝え、相手の考えと創発できる状態を作ることが大事になる。人間、自分が相手に投げかける時は保守的になる。受け身の時には物事を広く受け入れられる。
 小阪 市場も、こちらがしっかりと価値を作りながら投げ込めば、相手は新しい価値を含めて返してくれる。
 岡屋 投げ手には真摯な気持ちが必要。これだけいいモノなんだからどうだ、と思っていたら相手の反応は見抜けない。
 小阪 お客のほうが賢いなら、客に聞けばいいじゃないか、では何も始まらない。
 岡屋 基本価値のないモノに成功はない。それがあるから価値創造ができ、顧客とのスパイラルアップで価値が増幅される。投げ手から一方的に物質だけを提供する市場はもう伸びないだろう。

 小阪 真摯に価値を追求して、伝えていく。感性に働きかけることで顧客の中に価値が生じる。それを見抜き、また開発に生かし、新たな価値を伝えていく。そのフィードバックループが非常に重要だ。

《事例発表》いかにモノから人へ視点を変えるか
―鮮度保持メーカーにおける価値創造型マーケティングの取り組み-

お菓子の品質管理支援

鳥繁産業専務 鳥越一伸氏

 当社は大分県津久見市にある脱酸素剤や乾燥剤といった鮮度保持剤メーカー。ユーザーの中心は「町のお菓子屋さん」だ。価値創造型マーケティングには、顧客の役に立つ、自社の価値を伝え直す、代理店の役に立つという三つの視点で取り組んでいる。
 顧客の役に立つため、お菓子の品質管理支援を行っている。鮮度保持剤の選定や賞味期限設定のための試験を無償で実施し、鮮度保持剤、袋、シール機の選び方・使い方をアドバイスする。
 これを当社の価値として伝え直そうと、一昨年、創業50周年を機に、ホームページを商品紹介主体から、人と心にフォーカスした自己開示型にリニューアルした。問い合わせ件数は3倍に増えた。
 当社の商品は商社や問屋を経由してユーザーに届けられるので、代理店にも価値を伝え、販売を支援する取り組みも重要だ。代理店主催の展示会で、お菓子メーカーが持参する商品の「お菓子の健康診断」実演は大きな効果を上げている。

 これらの取り組みを通じ、自社の真の価値に気づけた。ユーザーの安心した商品づくり、代理店の提案・販売を後押しし、「ありがとう」を通じて新たな製品・サービスを創造していきたい。

《事例発表》価値創造型マーケティングで得られる成果とは 
―価格競争の激しい業界で中小企業が取り組み続けて起こったこと

顧客に心の豊かさを提供

キングラン東海社長 原田浩史氏

 当社の事業は病院や福祉施設向け防炎カーテンのリース・定期クリーニングと、福祉用具のレンタル。これらの事業は激しい価格競争に陥っている。その中で「いいサービス」「いい人」という当社の価値を伝える取り組みを進めている。
 まず価値を伝える視点でのツールを作り、また、顧客との絆をつくるニューズレターは6年目に入った。
 交換作業の際には患者らとのコミュニケーションを大切にしている。そこで自社のサービスに情緒的価値があることに気づいた。
 顧客を巻き込むイベントも実施している。社員のカーテン交換技能大会では、1位を予想し投票してもらうのだが、交換作業自体への関心が高まった。
 福祉用具レンタルでは担当者がケアマネージャーへの訪問営業をやめ、替わりにニューズレターに毎月投稿し、ケアマネージャーに配布するようにした。浮いた時間で利用者のモニタリングを入念に行い、新たなユーザーが次々と紹介されるようになった。

 商品、顧客、販売チャンネルなどは一切変えていないが、業績は回復し、社員のモチベーションは高まった。今後も、清潔、安全という機能だけでなく、心の豊かさを提供していきたい。