異業種交流会―KANSEIカフェ(コーディネーター オラクルひと・しくみ研究所代表小阪裕司氏)

感性価値を活用 −成功事例に学ぶ−
グループ討論する交流会参加者ら 9月14日に開かれた異業種交流会「KANSEIカフェ」(東京・北青山)

モノづくり推進会議は9月14日、東京・北青山の機械産業記念事業財団(TEPIA)で感性価値研究会の活動として異業種交流会「KANSEIカフェ」を開いた。テーマは「感性価値を活用した企業の成功事例」。愛媛銀行の三宅和彦感性価値創造推進室室長と朝日ウッドテックの大野智史商品部部長を講師とし、オラクルひと・しくみ研究所の小阪裕司代表がコーディネーターを務めた。感性価値を上手に取り入れた事業活動の秘訣を探ろうと約40人が参加し、商品にまつわる“物語”を、きちんと顧客に伝えることの大切さを学んだ。

最強の地域プロデューサー目指す
愛媛銀行感性価値創造推進室室長 三宅 和彦氏

私は愛媛・松山の出身だ。高校卒業後、四国の外で大学生活を送り、それから経済産業省に18年間勤務した。家庭の事情で2年ほど前に地元に帰り、愛媛銀行にお世話になることになった。

頭取から「とにかく企業を応援してくれ。あとは君の好きなように動いてくれ」と言われ、感性価値創造推進室を立ち上げた。舌をかみそうな部署の名前だが、そのおかげで広く関心を持ってもらい、知ってもらえるきっかけになった。

つくっていること、やっていることを伝えることは非常に難しいと日々感じている。いい商品でも知ってもらわないと買ってもらえない。松山市にある社員16人の小さな食品加工メーカーのミネラルウオーターの販売では、デザイナーを活用して商品のデザインの差別化を図った。それだけでは通用しないので、四国カルストの水ということを強調した。この水にはケイ素が含まれている。ケイ素が不足すると、骨や血管組織がもろくなりやすく、脱毛の原因にもなると言われている。

商品をただ置いてあるだけでは大手メーカーの商品にかなわない。このように、知ってもらうための仕掛け作りを考えることが、今の最大の仕事になっている。

地方銀行として最強の地域プロデューサーを目指し、取引事業者に知ってもらう、買ってもらう環境作りに取り組んでいる。愛媛銀行の100以上の支店を活用しながら、地元の経済同友会などの経済団体や行政、東京のマーケティングやプロモーション関係者などをうまくつなげる。その結果最近では、地方銀行が売り出すための仕掛け、プロデュースができると確信している。つながり力を生かして企業のブランディングをプロデュースすることで、地方銀行の役割が果たせる。

仮説だが、感性価値の取り組みを通じて、消費者はその商品にかかる手間暇を買っているのではないかと思う。愛媛の県産品のアンテナショップ「えひめイズム」は、愛媛銀行などで組織する感性価値コンソーシアムが運営して、販売スタッフとして女性12人を雇っている。彼女たちを生産者のもとに派遣し、生産者の生の声を聞いて商品ができるまでのストーリーを徹底的に聞き取り、“伝道師”になってもらっている。消費者に「こんな苦労があったんですよ」と説明すると「えひめイズム」の商品は3−4割高いにもかかわらず買ってもらえる。

感性価値はどれだけお客さまにワクワク・ドキドキさせ、それを購買意欲に結びつけることが命題だと思う。ワクワク・ドキドキさせる手間暇のことをきっちり説明していかなければいけない。

感性価値創造推進室は2009年5月に立ち上がり、1年4カ月がたった。今年7月末の段階で約250社500件の経営課題に対応してきた。経産省にいた時は、行政の中立性のために企業と一定の距離を取らないといけなかったが、地銀では特定の企業との距離を縮め社長とコミュニケーションをとっている。そのなかで、どうしても売れないという販路開拓で悩む社長が多い。

そのため、銀行がデザイナーやバイヤーなど外部の専門家とチームを組みブランディングのお手伝いをしている。企業の社長はお金の話から入ると身構えるが、ビジネスの話から入ると「よく来てくれた」と次から次へと相談を寄せてくれる。

愛媛銀行は小さな銀行なので、周りの力を借りないとうまくやっていけない。「えひめイズム」は松山市からの受託事業として3年間、約2億6000万円の支援を受けた。「えひめイズム」は非常に好調で、来場者が現在7万人を突破している。商品を売るだけではなく商談する機能も持たせているため、生産者とバイヤーとの“お見合い”も仕掛けている。

感性価値では単に商品づくりではなく、ビジネスにつなげるためことが大切でマッチングに特に力を入れている。愛媛はみかんが有名だが、酸味の強い青みかんがあり、これを東京の居酒屋チェーンとマッチングした。9月末から青みかんサワーとして使われることになった。また、愛媛の水引は全国でトップシェアだ。ホテルオークラのレストランのシェフの目にとまり、水引でつくったはし置きに採用された。

我々の取り組みを知ってもらうためテレビ番組もつくった。愛媛銀行がスポンサーとなり、12回にわたって「ひらめき!感性塾」を放映した。延べ約100万人が視聴したと言う。中小企業はなかなか自分だけで宣伝はできないが、テレビ番組をきっかけにいろいろな引き合いが来ている。

商品のメッセージ性伝える

朝日ウッドテック商品部部長 大野 智史氏

当社の直接のルーツは銘木商「霜寅銘木」で約100年になる。1952年に大樹深根の社是を受け継ぎ朝日特殊合板を設立し、1988年に「木+α」の企業理念を打ち立てて朝日ウッドテックに社名変更した。現在、主に扱っているのは、ラワン合板に薄く削いだ単板をつけている複合フローリングである。

床の意匠史を振り返ると複合床材ができて約50年の歴史がある。その間にさまざまな床材が出てきたがフローリングは15年ぐらいで張り替えられてしまう。100年以上かけて育った木を使っている名作家具などは代々使われている。同じようにフローリングでも木の良さを実感でき、もっと長く使っていただける商品をつくろうと思い立った。これを原点としてフローリングのブランド化を目指す「ライブナチュラル」のチャレンジが始まった。

1980年代に住宅メーカーと共同開発した、家一軒同じ色でコーディネートするという考え方のカラーフロアは、全盛時代が続いていた。各住宅メーカー・ディベロッパーの要望を聞いているうちに2000色に増えてしまい、マンション1物件ごとに違う色の床材をつくることになってしまった。

こうした状況で原点を思い起こし、我々がきちんと「やはり木はいい」と伝えることにした。20年近くカラーフロアの市場だったので、本物の木の良さを知っている業界人は多くない。そこでお客さまには口幅ったい言い方だが、木に関してはお教えする、という姿勢で木のことを語り始めた。

ライブナチュラルは月間1万坪売れたら大ヒットと思っていたが、それをはるかに超え、さらに伸びている。この間に全体の住宅の新築着工戸数が激減し、その状況下で勢いが少し鈍った時もあったが、販売量は上がり続けている。価格も業界では大きく下落したが、ライブナチュラルは新商品の投入もあり平均価格が上がっている。現在月間10万坪、累計で約360万坪出荷した。最初に企画した時には、ここまで売れるとは夢にも思わなかった。

業界が厳しい時に、経済産業省が指針として出した「感性価値イニシアチブ」に出会ったことが第二の飛躍につながった。私はライブナチュラルをブランド化するにはどうしたらいいかを考えている時、社長からの示唆をきっかけに、感性価値に取り組んだ。

これまで技術、信頼、機能、コストなどによって商品を売ってきた。やってこなかったのはストーリーやメッセージを持ったものとして可視化し、伝えることだった。そこでライブナチュラルのストーリーやメッセージ性を徹底的に語ることにした。ブランドブックをつくり、ワクワク感やドキドキ感を自ら語り、プロユーザーを通して生活者に伝えた結果、売り上げがさらに伸びた。

ライブナチュラルは「ムクの質感を持ったムクの意匠を超える床」というコンセプトの商品である。世界の森を歩き、調達した原木から一貫生産をしている。本来の木味(木材の色調や年輪、表面などが独特の雰囲気を醸し出す持ち味のこと)を表現する「木味活性化」、「不揃いの調和の美」などをその特徴としている。

木味活性化は突き板の意匠における革命と言われている技術だ。従来、複合フローリングは熱圧接着するので木の奥行き感やみずみずしさが出なかった。木味活性化技術により、みずみずしい透明感のある木味を出すことに成功した。

木はいろいろな材色・杢目などの個性があるが、ガムポケットやバークポケットなどは欠点と言われる。例えば「鳥目杢」はメイプル100本に1本出るか出ないかという非常に貴重な杢。このことをご存じないお客さまからは「気持ちが悪い」と言われるが、高級家具に使われているというような木の物語を話すと納得していただける。

バークポケットはキツツキが突いて傷が付き、それを木が自ら癒やした跡だ。これもキツツキの話をするとお客さまが理解し、それまで欠点と言われていたものがキャラクターとして生きる。

「不揃いの調和の美」は、個々に材色が違う木材を生かしている。カリンで一番濃いものと薄いものを比べると同じ木とは思えない。これをある一定の範囲で選別し組み上げると、バランスのいいデザインになる。熟練の技が生み出す美だ。

ライブナチュラルは感性価値のフレームワークの伝統、素材、技術、環境、共創、環境などすべてをそなえた商品であることに気付いた。このフレームワークで商品を語っていくことは非常に効果的だと確信している。今後も新しい商品を開発し、感性価値の伝導の旅を続けていきたい。

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